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出来るだけ他人の長所を発見してほめるようにしよう
気づくとずいぶん日が長くなっている。
ひと冬じゅう路面を覆っていた雪が融け、アスファルトを直接走る車のタイヤの音が春を感じさせていた。
オーシャン学習塾では3月の『歎異抄』勉強会が行われていた。
「さあ、今日もお1人ずつ、まいりましょう」
「はい、では僕から発表させていただきます」、荒川俊介が立ち上がる。
「僕もララさんの真似をして、実践報告をしてみてもいいですか?」
西田は心得た顔で、どうぞどうぞと促した。
「ここ数週間、社内で『歎異抄』勉強会を開いているんです。下手ながら僕が解説して……と言っても、西田さんの受け売りなんですけど」
「荒川さん、ちょっと学校の先生みたいだもんね」、ララが晴美にささやいた。
「説明が上手だしね。うちに営業に来たときもそうだった」と豊もあいづちを打つ。
「あのとき立山さんに言われて気づいたんです。わかりやすい説明ができる、というのは僕の強みかもしれないって。それを勉強会というかたちでみんなに貢献した結果、うまくいっているのかもしれない――自分で人に話すようになって腑に落ちました。これからは、ほかのメンバーの強みも引き出していけたらいいなと思っています」
「すばらしい」、西田が感心した。「自分の強みをきちんと把握している人は、そんなに多くありません。勘違いしていることもよくあります。それは、荒川さんが気づいたように、みんなの幸せにつながっているかどうかがポイントなのです」
西田はこんな言葉を紹介した。
「人は褒められると活気づき、困難に立ち向かう勇気がわきます。荒川さん、実践報告の続きを楽しみにしていますよ」
俊介の話を聞いて、晴美は〈フォーユー〉の仲間の顔を思い浮かべていた。家に帰ったら、みんなの強みを見つけ、生かすことを、もう一度集中して考えてみよう。
次の発表者は、ララだった。
「いま通っているダンススクールで、来月、富山市のコンテストに出るんです。主役にAちゃんが選ばれたのですが、意地悪だし自分勝手なので、みんな文句タラタラなんです。Bちゃんのほうがいいのに、って」。ララは口を尖らせて話を続けた。
「Bちゃんは明るくて面倒見がいいから、誰からも好かれているんですけど、ただ、ダンスはやっぱり、Aちゃんのほうが断然うまいんですよね……。何かフクザツです」
頬をプクッと膨らませてみせるララに、みんな思わず吹き出した。
「ララさん、ありがとうございます。実は似たような話は、会社でもどこでもあるんですよね」。と言うと、西田は少し真面目な顔になった。
「少し人間の本質に迫る話をしましょうか。大きな強みを持つ人は、往々にして、大きな弱みを持っているものです」
(たしかに、あるわよね)晴美が心の中でつぶやく。
「なぜ人間は、そんな人に性格のよさを求めてしまうのでしょうか。有名な経営学者のドラッカーは、『卓越性に対する妬み』の心があるからだと指摘しています。
強みのある人とて最初から天才だったわけではなく、相応の努力をしているのですが、その“得意なことにすべてを投入できる”能力、なりふりかまわず打ち込める能力に、人は無意識に嫉妬してしまうのです。
このねたみ、そねみの心を、仏教では『愚痴』といい、私たちは、死ぬまでこの心がなくならないと説かれているのです。
人間の本性を鋭く暴いて我々をギョッとさせられますね」
西田の言葉に、みな感心しきりだ。
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