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最近、インターネット上で、「100日後に死ぬワニ」という4コマ漫画が話題になりました。
漫画家でイラストレーターのきくちゆうき氏が、昨年12月12日からTwitterで毎日連載していたものです。
主人公であるワニの日常を100日にわたり描き続けてきた、この漫画のいちばんの特徴は、タイトルにあるように、最後に必ず「死まであと●日」と表示されることです。
100日後の主人公の「死」に向けて毎日カウントダウンされており、読者がそのことを知りながら読み進めるのです。
一方で、物語は、そんな設定を知らない主人公や、その周りの登場人物のほのぼのとした日常が描かれています。
そのギャップに、物語の上の楽しいやり取りも、ほっこりするエピソードも、なんだか胸が締めつけられるような気持ちになります。
Twitterのコメント欄にも、100日後の「死」が近づくにつれて、「死ぬって教えてあげたい」「せつない」などといった声が寄せられていました。
あまりの人気に、とうとう書籍化もされました。
「100日後に死ぬワニ」は、基本的にはほのぼのとした日常が描かれたマンガです。
しかし、そこには常に「死」があります。
ワニたちの日常が生き生きと描かれれば描かれるほど、いつもの日常であればあるほど、100日後に訪れる「死」が鮮明になってくるのです。
いわば、「生」と「死」のコントラストが強い作品とも言えるでしょう。
ある評論家は、「この漫画を読むと、メメント・モリという言葉を思い出す」とテレビで発言していました。
メメント・モリ(memento mori)とは、ヨーロッパに古くから伝わる言葉です。
もとはラテン語ですが、英語で言えば、メメントは、memoryやmemorizeということで「忘れるな」ということ。
モリとは、mortalということで、「やがて死すべき」という意味です。
また、mortalには、名詞の意味もあります。それは、「人間」ということです。
つまり、メメント・モリとは、「あなたは死すべきものであることを、心に置いて常に忘れるな」という意味です。
中世には、象牙などを材料にして人間のドクロを彫り、この句を刻んで、置物やアクセサリーに用いたといいます。
常に死を念頭に置く、よすがとしたのでしょう。
ちなみに、この「100日後に死ぬワニ」が書籍化されたのは、4月8日。
奇しくも、約2600年前、仏教を説いたお釈迦さまの誕生日と重なっています。
必ずやってくる、この「死」という大問題こそ、お釈迦さまの出家の動機でした。
お釈迦さまは、ヒマラヤ山麓にあるカピラ城の主・浄飯王(じょうぼんのう)とマーヤー夫人の長男として生まれました。
それは、4月8日、マーヤー夫人が出産のため故郷へ向かう途中、ルンビニーという花園に差しかかった時のことと伝えられています。
生まれてきた太子は「シッタルタ」と名づけられました。
世継ぎ誕生に歓喜した浄飯王は、文武両道の優者に育てたいと熱望し、国一番の師を迎えて英才教育を始めます。
太子は、一を聞いて十を知るほど利発で、弓を引かせれば百発百中、剣を取らせても向かうところ敵なし。
あまりの卓越した才能に圧倒された師匠たちが、間もなく辞任を申し出たほどでした。
王族として何不自由のない暮らしでしたが、太子は幼少より思慮深い性格で、物思いにふけられることが、よくありました。
ある時、気晴らしに城を出てみると、道端で杖を突き、よろめきながら歩く老人を見て驚きます。
今は若くても、やがて醜く痩せ衰え、邪魔者扱いされる時が来る。
自分も老いる身でありながら、老人に嫌悪感を抱くとは、何とおかしな話だろうか。
その矛盾に気づかれた太子に、青春の喜びはありませんでした。
しばらくして別の日、苦痛に顔をゆがめる病人の姿を見て、健康も一時の幸せにすぎないことに愕然とします。
さらに幾日か経ち、今度は葬式の列に遭遇されました。
ピクリとも動かぬ遺体を目撃した時、”やがて必ず死ぬのに、なぜ生きるのか”人生の目的を真剣に考えるようになられたのです。
悶々と過ごしていたある日、城の前を歩く修行者のすがすがしい姿を見て、老いと病と死を超えた幸福を求めることこそ、進むべき道と感じられたといわれます。
どんな幸せも、老いと病と死によって崩れてしまう。
真の安心は、城を出て探すしかないと決断した太子は、29歳2月8日、山奥深くに入られ、修行者となられました。
それから6年間、誰もしたことのない激しい苦行に打ち込まれます。
そして、35歳の12月8日、ついに大宇宙の真理を覚り、「仏」となられたのです。
今日は、医学の発展で寿命が飛躍的に延び、科学技術の向上は、日常生活にかつてない至便をもたらしました。
人間の生きざまは、2600年前と比べて激変しています。
しかし、「老病死」の苦しみは、古今東西すべての人にやってきます。
これが仏教の出発点です。
作品の主人公(ワニ)と私たちも全く同じで、必ず終わる時が来るのに、いつやってくるか分からずに、ただ毎日を送っています。
「100日後に死ぬワニ」は、私たちに大切なことを思い出させてくれたからこそ、多くの人が共鳴し、反響を呼んだのでしょう。
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