病気

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シリーズ 難病に折れない心(4) おしりの病気の原因はおなかの場合も

こんにちは。難病のフリーライター 松井二郎です。

わたしは「クローン病」という病で、これは何を食べても食あたりする病気ですが、ほかにも、さまざまな合併症が襲ってきます。難病中の難病といわれるゆえんです。

なかでもひどい、とんでもないのが……

おしりにナゾの激痛

まだ自分が難病になったことを知らず、ふつうに会社づとめをしていた、ある日のこと。

出勤してイスに腰かけた、そのときでした。

「いてっ!」

思わず腰を浮かしました。肛門に激痛が走ったのです。

数秒、イスを見つめて立ち尽くしました。なんだ? いまのは? イスの上には何もない。

おそるおそる、もういちど腰かけてみる。今度は、そーっと……。

いっでえぇぇ!

恥ずかしいから声は出せませんが、おしりがイスにつくと、ビリッ! と肛門に電流が流れるような感覚があって、まさに飛び上がるほど痛いのです。

でも肛門が痛いだなんて、周りに言えない。なんとかして悟られないように着席せねば。

体を右に傾けて、静かに腰を落としていく。おしりの右ハシを着地させる。よし。痛くない。

でも問題はここから。痛かった肛門をすぼめておいて、体の傾きを垂直に近づけていく。背筋とイスの座面が直角になる。おしりがまともに座面についた。

うぐっ……。

電流は走るけど、飛び上がらずにはすむ。
そして、いちど座ってさえしまえば、もう痛くないのでした。

ふうー。なんだか分からないけど、とりあえずこれでしのごう。そのうちおさまってくれるといいんだけど。

一人暮らしのアパートで悶絶

しかし日に日に状態は悪化。

ついに、おしりを右に傾けても左に傾けても、どう工夫しても、イスに座れないほど痛くなりました。

それどころか、おしりがパンツにかすっただけで痛い。
これはただごとではないのでは?

鏡を合わせて肛門を見てみました。

「なんだこりゃ!」

肛門の左側が、ぷっくり赤くハレあがっているのです。直径5センチはあるでしょうか。そのハレが、どうやら肛門の中まで続いているみたいなのです。

あした病院に行こう……。

その夜。
さらに痛みが増してきました。

それまでは、おしりに何かがふれると飛び上がるほど痛かったのが、もはや何もしていなくても飛び上がるほど痛い。

ベッドにうつ伏せになって耐えているのですが、肛門のまわりが針で刺されるようで、思わずうめき声がでる。

痛みは一瞬も途切れず、時間とともにひどくなる。
深夜、うめき声をとおりこして、叫び声をあげていました。

とうとう一睡もできず窓の外が白んできました。

病名は肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)

「あー、これは痛いですね」

病院の肛門科で、わたしは寝台に横向きに寝かされました。

「いまからウミを出しますので、麻酔をします。チクッとしますよ」

いたっ……。
ふう。ああ、これでもう助かるんだ。

「ウミを出すための穴をあけますね」

おしりに何か とがったものを通されている感じ。でも痛くない。

「ではいまからウミを出します。ちょっと痛いですよ。ガマンしてくださいね」

え? 麻酔してますよね。痛いわけないじゃ……

ぎゃーッ!!

肛門に医師の指が入り、その指がおしりにあけた穴にむかって外側へぐりぐり動く。そのたびに、激痛なんてもんじゃない激痛が、脳天まで突き上がる。

これでも人間って気絶しないのか、とヘンなところに感心しながら、意識がうすれかかりました。

ちなみにこの病院まで涙をにじませながら歩いてきたのですが、この状態、あの夜のうちに救急車を呼んでよい状態です。いまにして思えば。

「この病気は、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅうい のうよう)というんです」

落ち着いたあと、医師の説明をうける。

「肛門の奥には、肛門腺(こうもんせん)といって、うんちを出しやすくする潤滑油を出す穴がいくつかあるんですが、下痢をすると、下痢の中の細菌がこの穴に入ってしまうことがあります。すると、出口がありませんから、化膿してしまいます。それが今回の病気だったんです」

へぇ~。

「念のため、精密検査を受けてください」

「えっ?」

「この病気になる人は100人に1人の割合で腸に何らかの異常があるんです」

検査の結果――
その100人に1人でした。

真の病名が告げられる

医師の口から出たのはクローン病という耳慣れない言葉。

「では説明します。このクローン病というのは、ちょっと難しい病気なんです。まず主な症状としては、腹痛と下痢がおきます。それにともなって、発熱、倦怠感(けんたいかん)、体重の減少、貧血。あと、肛門に合併症がおきやすくなります。今回の肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)も、クローン病の合併症だと思います。松井さんは、このクローン病の初期段階です」

たんたんとした口調でそう言うと、うすい小冊子を差しだし、

「詳しいことは、このパンフレットを読んでおいてください」

診察が終わり、一人になったあとで、わたしはパンフレットをひらきました。
こう書いてあります。

クローン病は、若年者に多く発症し、小腸と大腸を中心とした消化管がおかされる炎症性疾患(えんしょうせいしっかん)です。医学が進歩した今日においても、その原因は不明で根本治療は開発されていません。

(日比紀文監修『第2版 クローン病の正しい知識と理解』)

え?
なんだって?

しかし、(中略)近年わが国や欧米諸国においても、クローン病の病態を解明する研究が活発に行われ、実際に多くの新しい治療法が開発されつつあります。さらに、遺伝子解析などにより、病因に迫る研究も始まり、原因が解明されれば、根本治療の開発も期待されます。

(同)

期待? 期待ってなんだ?
解明されれば? それって、いつの話だ?

まじかよ……。

難病のショックがやわらいだ理由

このとき27歳でした。
人生これからというとき、なんてこった。
まさか自分の人生に難病というストーリーがあるとは。
それも難病中の難病であるらしい。

ショックでした。

でも、

実はそれほど、人生が終わってしまうほどのショックでもなかったのです。

こんな言葉があります。

無明業障(むみょうごうしょう)の恐ろしき病

仏教の言葉です。詳しい意味は長くなるので大まかにいうと、

これは体の病ではなく、「なぜ生まれ、生きているのか、苦しくてもなぜ自殺してはならないのか分からない」という病です。

この難病にかかっているせいで、いまもそうだし、前世でも、この先の来世でも、そのまた先の来世でも、永遠に、なんのために生きているのか分からずに苦しみ続けるのであり、すべての人を苦しめているのは体の病でもなく心の病でもなく「無明業障(むみょうごうしょう)の恐ろしき病」であると仏教で説かれています。

それに比べれば、まあ、ショックはショックだけれど、たかだか、長くてあと60年ほどの体が病になったにすぎない。

わたしは能天気なほうではないし、性格も楽観的でなく、むしろすぐクヨクヨするネクラな男です。

しかしこのことを知っていたので、

「ま、いっか。」

と思えたのでした。

つづく。

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この記事を書いた人

フリーライター:松井 二郎

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