こんにちは。難病のフリーライター 松井二郎です。
わたしは「クローン病」という病で、これは何を食べても食あたりする病気ですが、ほかにも、さまざまな合併症が襲ってきます。難病中の難病といわれるゆえんです。
なかでもひどい、とんでもないのが……
おしりにナゾの激痛
まだ自分が難病になったことを知らず、ふつうに会社づとめをしていた、ある日のこと。
出勤してイスに腰かけた、そのときでした。
「いてっ!」
思わず腰を浮かしました。肛門に激痛が走ったのです。
数秒、イスを見つめて立ち尽くしました。なんだ? いまのは? イスの上には何もない。
おそるおそる、もういちど腰かけてみる。今度は、そーっと……。
いっでえぇぇ!
恥ずかしいから声は出せませんが、おしりがイスにつくと、ビリッ! と肛門に電流が流れるような感覚があって、まさに飛び上がるほど痛いのです。
でも肛門が痛いだなんて、周りに言えない。なんとかして悟られないように着席せねば。
体を右に傾けて、静かに腰を落としていく。おしりの右ハシを着地させる。よし。痛くない。
でも問題はここから。痛かった肛門をすぼめておいて、体の傾きを垂直に近づけていく。背筋とイスの座面が直角になる。おしりがまともに座面についた。
うぐっ……。
電流は走るけど、飛び上がらずにはすむ。
そして、いちど座ってさえしまえば、もう痛くないのでした。
ふうー。なんだか分からないけど、とりあえずこれでしのごう。そのうちおさまってくれるといいんだけど。
一人暮らしのアパートで悶絶
しかし日に日に状態は悪化。
ついに、おしりを右に傾けても左に傾けても、どう工夫しても、イスに座れないほど痛くなりました。
それどころか、おしりがパンツにかすっただけで痛い。
これはただごとではないのでは?
鏡を合わせて肛門を見てみました。
「なんだこりゃ!」
肛門の左側が、ぷっくり赤くハレあがっているのです。直径5センチはあるでしょうか。そのハレが、どうやら肛門の中まで続いているみたいなのです。
あした病院に行こう……。
その夜。
さらに痛みが増してきました。
それまでは、おしりに何かがふれると飛び上がるほど痛かったのが、もはや何もしていなくても飛び上がるほど痛い。
ベッドにうつ伏せになって耐えているのですが、肛門のまわりが針で刺されるようで、思わずうめき声がでる。
痛みは一瞬も途切れず、時間とともにひどくなる。
深夜、うめき声をとおりこして、叫び声をあげていました。
とうとう一睡もできず窓の外が白んできました。
病名は肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)
「あー、これは痛いですね」
病院の肛門科で、わたしは寝台に横向きに寝かされました。
「いまからウミを出しますので、麻酔をします。チクッとしますよ」
いたっ……。
ふう。ああ、これでもう助かるんだ。
「ウミを出すための穴をあけますね」
おしりに何か とがったものを通されている感じ。でも痛くない。
「ではいまからウミを出します。ちょっと痛いですよ。ガマンしてくださいね」
え? 麻酔してますよね。痛いわけないじゃ……
ぎゃーッ!!
肛門に医師の指が入り、その指がおしりにあけた穴にむかって外側へぐりぐり動く。そのたびに、激痛なんてもんじゃない激痛が、脳天まで突き上がる。
これでも人間って気絶しないのか、とヘンなところに感心しながら、意識がうすれかかりました。
ちなみにこの病院まで涙をにじませながら歩いてきたのですが、この状態、あの夜のうちに救急車を呼んでよい状態です。いまにして思えば。
「この病気は、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅうい のうよう)というんです」
落ち着いたあと、医師の説明をうける。
「肛門の奥には、肛門腺(こうもんせん)といって、うんちを出しやすくする潤滑油を出す穴がいくつかあるんですが、下痢をすると、下痢の中の細菌がこの穴に入ってしまうことがあります。すると、出口がありませんから、化膿してしまいます。それが今回の病気だったんです」
へぇ~。
「念のため、精密検査を受けてください」
「えっ?」
「この病気になる人は100人に1人の割合で腸に何らかの異常があるんです」
検査の結果――
その100人に1人でした。
真の病名が告げられる
医師の口から出たのはクローン病という耳慣れない言葉。
「では説明します。このクローン病というのは、ちょっと難しい病気なんです。まず主な症状としては、腹痛と下痢がおきます。それにともなって、発熱、倦怠感(けんたいかん)、体重の減少、貧血。あと、肛門に合併症がおきやすくなります。今回の肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)も、クローン病の合併症だと思います。松井さんは、このクローン病の初期段階です」
たんたんとした口調でそう言うと、うすい小冊子を差しだし、
「詳しいことは、このパンフレットを読んでおいてください」
診察が終わり、一人になったあとで、わたしはパンフレットをひらきました。
こう書いてあります。
クローン病は、若年者に多く発症し、小腸と大腸を中心とした消化管がおかされる炎症性疾患(えんしょうせいしっかん)です。医学が進歩した今日においても、その原因は不明で根本治療は開発されていません。
(日比紀文監修『第2版 クローン病の正しい知識と理解』)
え?
なんだって?
しかし、(中略)近年わが国や欧米諸国においても、クローン病の病態を解明する研究が活発に行われ、実際に多くの新しい治療法が開発されつつあります。さらに、遺伝子解析などにより、病因に迫る研究も始まり、原因が解明されれば、根本治療の開発も期待されます。
(同)
期待? 期待ってなんだ?
解明されれば? それって、いつの話だ?
まじかよ……。
難病のショックがやわらいだ理由
このとき27歳でした。
人生これからというとき、なんてこった。
まさか自分の人生に難病というストーリーがあるとは。
それも難病中の難病であるらしい。
ショックでした。
でも、
実はそれほど、人生が終わってしまうほどのショックでもなかったのです。
こんな言葉があります。
仏教の言葉です。詳しい意味は長くなるので大まかにいうと、
これは体の病ではなく、「なぜ生まれ、生きているのか、苦しくてもなぜ自殺してはならないのか分からない」という病です。
この難病にかかっているせいで、いまもそうだし、前世でも、この先の来世でも、そのまた先の来世でも、永遠に、なんのために生きているのか分からずに苦しみ続けるのであり、すべての人を苦しめているのは体の病でもなく心の病でもなく「無明業障(むみょうごうしょう)の恐ろしき病」であると仏教で説かれています。
それに比べれば、まあ、ショックはショックだけれど、たかだか、長くてあと60年ほどの体が病になったにすぎない。
わたしは能天気なほうではないし、性格も楽観的でなく、むしろすぐクヨクヨするネクラな男です。
しかしこのことを知っていたので、
「ま、いっか。」
と思えたのでした。
つづく。
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