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「働く意味が見いだせない」「働くとはどういうことなのだろう」「何のために働くのだろう?」という人が増えています。人生の大部分を費やす仕事に意味が感じられないとしたら、その人生は果たして充実したものといえるのでしょうか?そこで、この記事では、働くとはどういうことなのか、働く意味について考えてみたいと思います。
『朝日新聞』に連載されているコラム「悩みのるつぼ」には、読者からのさまざまな悩みが寄せられています。ある日、大学3年生の男子から、働くとはどういうことか、働く意味について次のような相談が寄せられていました。
この働く意味についての悩みに、同コラムの回答者は「こんな問題でいちいち本気で悩まなくなった状態を『大人』と言います」と答え、「悩み飽きたら大人になって、いつの日かいっしょに苦笑いしましょう」と結んでいます。
しかし、この答えに、ネット上では、「結局働く意味が分からない」「なんだかずるい」「無難なところで寛容な大人が若者を丸め込んで、終わらせようとしているように感じる」などの意見も多いようです。
そもそも、現代の日本は、働く意味を見出しにくくなってきていると言われます。
生きるために必死に働いていた戦後の混乱期には、働く意味など考えず、少しでも豊かな生活をするために一心に働くだけだったかもしれません。
しかし、やがて、驚異の経済成長によって、日本は世界有数の経済大国となりました。経済的に豊かになり、仕事やライフスタイルを自由に選べるようになったのです。
中には、定職を持たない「ニート」もいます。アルバイトを辞めたある青年は、友人の家を泊まり歩く家出の延長で、ホームレスになりました。その青年は「ホームレスをやって分かったのは、日本は豊かだってこと。無理して働かなくても生きていける」と言い、そこまで働く意味は何か、働くとはどういうことか、と疑問を投げかけています。
厚労省はじめ、各方面でニートの「働かぬ理由」が調査された結果、浮き彫りになったのは、「働く意味の曖昧さ」でした。
大学教授の中島義道さんの著書
『働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)』
では、働く意味に悩む、4通りの想定読者が示されています。
働く意味に悩むこれらの声に、「ああ、自分も同じだ」と共感する人も、少なくないのではないでしょうか。
2018年5月19日の『朝日新聞』に、「『働く目的』30年で激変」という記事が掲載されていました。
記事によると、人々の働く意味が平成の30年で大きく変わったことが読み取れます。新入社員に働く目的を尋ねた調査では、「楽しい生活をしたい」が急上昇して全体の43%となり、過去最高を更新しました。一方、「自分の能力をためす生き方をしたい」は急落して11%と過去最低に。「社会のために役に立ちたい」も減少傾向といいます。また、「お金のため」と答えた人は、全体の4分の1でした。
そこで、この記事に示されている3つの主な働く意味、「お金のため」「楽しむため」「社会貢献のため」について、それぞれ考えてみたいと思います。
働く意味を問いかけてみると、多くの人は「お金を得るため」と答えるかもしれません。仕事の対価として報酬を得て、そのお金で生活するわけですから、お金を得るのが仕事の1つの側面ではあるでしょう。
しかし、哲学者の池田晶子さんは、
『14歳からの哲学 考えるための教科書』
で次のように述べています。
「働くことが人生だ」とわき目も振らずに働いてきた日本人ですが、豊かになるにつれ、「働くとはどういうことか?」「働くだけが人生か?」の疑問符は大きくなってきているのではないでしょうか。働くのは、「お金+何か」を求めてのことなのですが、その「何か」に当たる働く意味がなかなか見いだせないのです。
働くこと自体が楽しければ、働く意味を感じられるでしょう。「自分のやりたいこと、好きなことを仕事にすればいい」とアドバイスする人もいます。この意見に、素直に耳を傾けることはできるでしょうか。
一言で「好きな仕事」といっても、その中には多くの「好きじゃない」仕事が含まれています。
例えば、料理が好きで一流レストランで働くことができたとしても、数年間は雑用しかやらせてもらえないのが普通です。人生には、自分の思い通りにならない時期があるもので、どんな仕事も、楽しいと思えるようになるまでには、最低限必要な知識やスキルを身につけるのに、相当の努力が必要です。
さらに、そうやって好きなことを仕事にできた人でも、いつまでも働く意味と喜びを感じられるとは言えないようです。
アメリカ大リーグで活躍し、好きな道で成功を収めたイチロー選手は、多くの野球少年のあこがれの的ですが、こんな意外な本音も漏らしています。
マネジメントの発明者ともいわれるドラッカーは、自分の強みを生かした仕事によって働く意味が感じられると主張していますが、苦は色を変えるだけで、左肩の荷物を右肩に移すようなもの。どんなに好きで得意なことでも、仕事にしたら苦しくなるようです。
「いい仕事をしているな」と、羨望の目で見られている人でも、働く意味が見いだせず、外からは分からない憂苦を抱えているのでしょう。
「家族や子供のため」「社会のため」「世界人類に貢献するため」と答える人もいます。「能力や才能を生かし、誰かのために役に立つ仕事をしたい」と、報酬のほとんどないボランティアにつく人がいます。働く意味を社会貢献に見出す人は多いようです。ほとんどの人が自分のことばかり考えている中、他の誰かのために生きるのは、素晴らしい生き方といえるかもしれません。
ところが現実問題は、年齢を重ねていくと、だんだんと衰え、やがて社会貢献というより、社会や家族に迷惑をかけるようになっていきます。
『60歳からの「生きる意味」 理想の生活を見つけるヒント』という本には、こう書かれています。
働く意味を感じられるのは、社会に役立っているという実感があるあいだだけです。
しかし、「社会に役立たない人に生きる意味はない」は、人間の尊厳を無視する暴言でしょう。
誰か他の人のために生きるとか、社会に貢献することは、大変素晴らしい「生き方」ではありますが、「生きる目的」ではないのです。
なぜ、働く意味は、こんなにも分からないのでしょうか。
シンクタンクの代表であり、ビジネス・経営・教育などの分野でも多彩なキャリアを持つ田坂広志さんは、働くとはどういうことか、その働く意味の分からない原因を「死生観が抜けているからだ」と、著書『なぜ、働くのか: 生死を見据えた『仕事の思想』』の中で端的に述べています。
天才物理学者のアインシュタインは、「我々の直面する重要な問題は、それと同じ考えのレベルで解決することはできない」と言いました。働くのは生きるための手段ですから、レベルを深めて、「そうまでして働いて、『生きる』のは何のためか」「働くとはどういうことか」を知らなければ、働く意味はハッキリしないのです。
田坂さんは、次のように述べています。
だから、働く意味を問う時には、「やがて必ず死なねばならないのに、なぜ生きるのか」という「死生観」が重要なのです。
働く意味を知るカギである、その死生観をいかに身につけるべきか。
そもそも、私たちは、死を忘れて日々を生きています。そこで、田坂さんは、「死と対峙することの大切さ」と、余命という「砂時計の砂の音に耳を傾ける」ことを勧めています。働くとはどういうことかを知るために、大切なことです。
「死」と対峙する
明日、自分の生が終わるとしたならば、今日という一日をどのように生きるだろうか。そのとき、この窓の外の景色がどう見えるだろうか。いま横にいる職場の仲間が、どのように見えるだろうか。そのことを、静かに想像してみていただきたい。
田坂さん自身も、32歳のときに医者から癌を宣告されたと言います。
癌の宣告
「もう長くありません」と医者から余命宣告をされてから、文字通り、地獄の日々でした。自分の命が失われていく恐怖感で、夜中に目が覚め、それは悪夢ではなく現実であることを思い知る。そんな筆舌に尽くしがたい苦しみの日々を送りました。
「砂時計」の砂の音に耳を傾ける
「砂時計」の砂は、さらさら、さらさら、いま、落ち続けています。そして、この砂がなくなったら、命は終わる。この「砂時計」は、目に見えない。そのため、この「砂時計」の残りの砂の量は、分からないのです。平均寿命が80歳と聞くと、自分も80歳まで生きると、無意識に考えてしまう。しかし、実は、誰もそれを保証していない。
もし、その砂の音に、深く耳を傾けることができるならば、我々は、この一瞬を、最高に充実して生きることができる。最高に光り輝いて生きることができる。
私たちは、何のために働いて生きるのか。かけがえのない砂時計の砂は、どんどん落ちていきます。人生の目的が鮮明であれば、働くとはどういうことかが知らされ、「そうだ、このために働くのだ!」と働く意味を感じ意欲がわいて、人生そのものが輝き出す。
労働意欲の一番の栄養剤は、人生の目的なのです。
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