生と死

生と死

今日が人生最後の日なら|スティーブ・ジョブズの言葉が現代に問いかけるもの

こんにちは、齋藤勇磨です。

スティーブ・ジョブズ(1955-2011)は、アメリカの実業家として、その名を歴史に刻みました。

彼は、リード大学を中退後、アタリ社でゲーム開発に携わります。

1976年、21歳の若さでスティーブ・ウォズニアックとともにアップルコンピュータ社を設立。

当時、企業や研究機関でしか使われていなかったコンピューターを、一般家庭に持ち込んだ「Apple II」は、パーソナルコンピューターの幕開けを告げました。

また、「Macintosh」、「iPod」、「iPhone」、「iPad」など、世界を驚かせる革新的なデジタル機器を次々と世に送り出しました。

彼の革新は、私たちのライフスタイルそのものを変えたと言っても過言ではありません。

死を見つめることで見えてくるもの

そんな彼が、自身の原点を語ったのが、2005年、スタンフォード大学の卒業式で語った有名なスピーチは、彼の人生観と哲学が凝縮された、時代を超えて人々の心を捉える名スピーチとして知られています。

彼は自身の人生を3つの物語として語りました。その中でも特に聴衆の心を揺さぶったのが、「死」についての話です。

ジョブズは17歳の時に、こんな言葉に出合ったといいます。

「もしあなたが毎日、これが最後の日と思って生きるなら、いつかきっと正しい道に進むだろう」*1

この言葉は、彼の人生の羅針盤となりました。

誰にでも、人生最後の日がやってきます。死にゆく運命から逃れられる人はいません。限られた人生をよりよく生きるには、時間をムダにせず、今日を最良の日にしようという努力が欠かせません。

感銘を受けたジョブズは、こんな習慣が身についたと語りました。

「以来33年間、毎朝鏡を見つめて自問自答しています。『もし今日が人生最後の日だったら、今日やろうとしていることをやりたいと思うか?』と。もしノーの答えが何日も続けば、何かを変える必要があるとわかるのです」*2

実は、彼はスピーチの1年半ほど前、膵臓がんの診断を受けていました。

医師から長くても数カ月の命と告げられ、死を間近に感じた経験から、人生の門出を迎えた卒業生に向かって、ジョブズは力強く語りかけます。

「人生を左右する分かれ道を選ぶとき、いちばん頼りになるのは、いつかは死ぬ身だと知っていることだと私は思います。ほとんどのことが――周囲の期待、プライド、ばつの悪い思いや失敗の恐怖など――そういうものがすべて、死に直面するとどこかに行ってしまい、本当に大事なことだけが残るからです」*3

普通、死に関する話ははばかられますが、ジョブズは堂々と語りました。彼の感動的なスピーチは、直後から話題となり、現在もインターネットで多くの人に動画が視聴されています。

影響を受けた仏教思想

そんなスティーブ・ジョブズが、強く影響を受けたのが、仏教でした。

独創的なスティーブ・ジョブズは、気難しい性格の持ち主として有名でした。

破天荒な性格のため、人間関係には常に悩まされていたそうです。

友人のジョン・コトケによると、大学入学時のジョブズは人生に悩んでいて、「自分は何者か、何のための人生なのかをものすごく模索していた」と証言しています。

そんな彼の精神的なよりどころになっていたのが仏教でした。

彼は、若い頃から仏教に関心を持ち、日本で僧侶になろうかと真剣に考えたほど、熱心に学んでいたといいます。

仏教には「無常」が説かれています。

無常とは、常が無いということです。人はいつまでも生きていられるわけではない、自分に残されている時間には、限りがあり、いつ、人生に終わりが来るか分からない、と教えられます。

その人生の儚さ、有限さを見つめることが、悔いなき人生への第一歩なのだといわれているのです。

誰しも、悔いなく生きたいと思っています。一度きりの人生、一生懸命に生きたいと願います。

ところが、ただ何となく時間を過ごしてしまったり、毎日が同じことの繰り返しのように思えたりして、惰性で日々を過ごしてしまうことがあります。

いつまでも時間があると思っていると、時間を大切に使おうという気持ちになれません。

時間という〝命〟を無駄遣いしてはいけない。彼のスピーチには、そんなメッセージが込められているようです。

日々の忙しさに追われ、大切なことを見失いがちな現代社会において、ジョブズのメッセージは、私たちに立ち止まって自分自身と向き合うことの大切さを教えてくれます。

[出典]
*1、2 桑原晃弥(著)『スティーブ・ジョブズ全発言 世界を動かした142の言葉』 PHP研究所

*3 ウォルター・アイザックソン(著) 井口耕二(訳)『スティーブ・ジョブズⅡ』 講談社

この記事を書いた人

ライター:齋藤 勇磨

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