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『カラマーゾフの兄弟』読み解くカギは人生の目的

こんにちは、齋藤勇磨です。

『カラマーゾフの兄弟』は、ロシアにとどまらず世界の文学を代表する文豪ドストエフスキー(1821-1881)の、遺作にして、最大の長編小説です。

長い上に、超難解といわれ、多くの人が「読みたいけど無理そう・・・」「難しくて理解できなさそう・・」と思うはずです。

しかし、新潮文庫版の『カラマーゾフの兄弟』は、帯に「上巻読むのに4ヶ月。一気に3日で中下巻! 」という、芥川賞作家・金原ひとみのコメントが書かれ、話題になりました。

ちょうど、哲学書と恋愛小説と推理小説を足して重厚にした感じで、中盤から急激に面白くなります。

英作家サマセット・モームは、「世界の十大小説」の1つとしてこの作品を挙げました。

「小説の最高傑作」「すべての小説は『カラマーゾフの兄弟』に含まれる要素でできている」など、古今東西の小説の中で最高傑作といわれるのが、『カラマーゾフの兄弟』です。

時代や国を超え、この作品が多くの人の心を動かす理由を、数回にわたって探ってみましょう。

『カラマーゾフの兄弟』を愛読する有名人

『カラマーゾフの兄弟』を愛読する有名人は、枚挙にいとまがありません。

何人か、挙げてみましょう。

アインシュタイン

20世紀最大の物理学者と言われるアルベルト・アインシュタインは、「ドストエフスキーは数学者カール・フリードリヒ・ガウスよりも大きく、精神性のミステリーに挑戦した偉大な宗教的作家」と評しました。

フロイト

精神分析学の父とも呼ばれるオーストリアの精神科医ジークムント・フロイトは、『カラマーゾフの兄弟』を「最も壮大な小説」と称賛し、ドストエフスキーの文学に強い興味を寄せています。

論文「ドストエフスキーと父親殺し」で、ドストエフスキーの小説や登場人物について研究しているほどです。

フロイトが論文の表題に作家の名前を冠したことは、極めて異例なことだと言われています。

ウィトゲンシュタイン

イギリス・ケンブリッジ大学で教鞭をとった、20世紀最大ともされる哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、『カラマーゾフの兄弟』を50回以上も熟読したといいます。

第一次世界大戦従軍時の数少ない私物の一つが『カラマーゾフの兄弟』でした。

ニーチェ

20世紀思想に決定的な影響を与えた哲学者フリードリヒ・ニーチェはドストエフスキーを「唯一無二の心理学者」と呼び、『カラマーゾフの兄弟』を読んで「私の人生で最も美しい幸運の一撃だった」と述べました。

黒澤明

映画監督の黒澤明「もちろん僕などドストエフスキーとはケタが違うけど、作家として一番好きなのはドストエフスキーですね」と語り、若い頃から熱心に読んでいたといいます。

村上春樹

毎年のようにノーベル文学賞の有力候補と目され、著作が世界中で愛されている作家の村上春樹さんは、最も好きな作品の一つとして、『カラマーゾフの兄弟』を挙げ、4回は読んだと公開インタビューで語っています。

「世の中には二種類の人間がいる。『カラマーゾフの兄弟』を読破したことのある人と、読破したことのない人だ」とまで言うほどです。

そのほか、作家のカフカヘミングウェイなど、世界中に影響を与えました。

俳優のキアヌ・リーブスも、『カラマーゾフの兄弟』を愛読しています。

日本でも、江戸川乱歩、小林秀雄、手塚治虫、大江健三郎、三島由紀夫、太宰治などが愛読し、ドストエフスキーから強い影響を受けています。

【ネタバレ注意!】『カラマーゾフの兄弟』のあらすじ

それでは、『カラマーゾフの兄弟』のあらすじを紹介しましょう。

物語は、カラマーゾフ家の「父と3人の息子たち」の間で複雑に絡み合う人間模様や、2人の美女をめぐる愛憎劇などを中心に描かれます。

ロシアの田舎町に居を構える地主フョードル・カラマーゾフには、先妻との子である長男ドミートリーと、後妻との子である次男イワン三男アレクセイ(アリョーシャ)の3人の息子がいます。

このほか、カラマーゾフ家には、料理人として仕えるスメルジャコフらが住み込んでいます。

スメルジャコフの実父はフョードル、という噂もありました。

豪放磊落、直情的な性格のドミートリーは、遺産相続や妖艶な美女グルーシェニカをめぐって、父と激しく対立。

ドミートリーには婚約者カテリーナがおり、金銭的な負い目もあって、婚約を破棄できずにいます。

理知的で無神論者のイワンは、そのカテリーナに思いを寄せ、彼女を冷たくあしらう腹違いの兄に、強い憤りを覚えます。

優しい性格で誰からも愛されるアリョーシャは、町外れにある修道院で修行を積みつつ、彼らの仲裁に入ります。

そのアリョーシャは、ゾシマ長老を敬愛してやみませんが、ゾシマの死後、彼の遺体をめぐる事件に激しく動揺してしまいます。

物語は、父フョードルの殺害と、その犯人捜しで急展開を迎えます。

フョードルの遺体が発見されると、真っ先に嫌疑がかかったのがドミートリーです。

2人がグルーシェニカを争い、激しくケンカする様子が何度か目撃されていたからです。

ドミートリーは逮捕され、一貫して無罪を主張するも、受け入れられません。

裕福なカテリーナは、ドミートリーを犯人と考えていましたが、裁判では減刑を望み、弁護士をつけます。

一方、ドミートリーへの愛に目覚めたグルーシェニカと、心優しいアリョーシャは、無罪を信じて疑いません。

これに対して、イワンは当初、兄の犯行を確信していましたが、自分に心服するスメルジャコフと面談を重ねるうち、思いもかけない真犯人にたどり着きます。

しかし、裁判の行方のカギを握るスメルジャコフが判決前に自殺。

彼に多大な影響を与えていたイワンも、罪の意識から発狂していくのです。

ついに、ドミートリーに運命の判決が下されるのでした――。

『カラマーゾフの兄弟』と人生の目的

なぜ、『カラマーゾフの兄弟』は、多くの人を魅了するのでしょうか。

もちろん、様々な意見があるでしょうが、私は、『カラマーゾフの兄弟』が、「人は、何のために生きるのか」という、私たちが最も知りたい問いに、真摯に向き合った作品だからではないか、と思います。

以下の言葉には、そのことが端的に表れているのではないでしょうか。

「人間存在の秘密というのは単に生きることにあるのではなく何のために生きるのかということにある」(第2部第5編)

第2部の第5編「プロとコントラ」は、ドストエフスキーの思想の精髄と言われる作中劇『大審問官』が語られる、重要な場面です。

当時の『ロシア年鑑』によると、1868年以降の5年間で、自殺者が3倍に増えたという恐ろしい数字が出ており、ドストエフスキーは「じっさい、わが国では近年自殺が増えて、だれももうそのことを話題にしないほどになっている」(『作家の日記』)と述べています。

同時代のロシアにはびこる「自殺病」から人々を救うため、一作家として何かを語らなくてはならない。

何らかの救いの道を提示しなければならない。

そうしたギリギリの想いから紡ぎだされた物語が、やがて『カラマーゾフの兄弟』に結実したのではないかと、ドストエフスキー研究者・亀山郁夫さんは示唆しています。

作中で自殺するスメルジャコフについては、改めて取り上げたいと思います。

なぜ自殺してはいけないのか

自殺は、哲学における中心的な問題の1つです。

実存主義の作家として有名なカミュは『シーシュポスの神話』という哲学的エッセイの冒頭で、こう書いています。

「真に重大な哲学上の問題はひとつしかない。自殺ということだ。人生が生きるに値するか否かを判断する、これが哲学の根本問題に答えることなのである」(『シーシュポスの神話』清水徹訳 新潮文庫)。

自ら命を捨てる人は、現代も後を絶ちません。

日本の自殺者数は、年間2万人を超えます。

かつて自殺未遂は、自殺者の10倍といわれていましたが、今や20倍という調査結果が出ています。

「こんなことなら死んだほうがマシ」と思いながらも、「死ぬのは怖い」「家族に迷惑をかける」と踏みとどまっている人は、数百万どころではないでしょう。

地球より重い命が、いとも簡単に捨てられている根本原因は、どこにあるのでしょうか。

それは、人間に生まれなければ果たすことのできない、崇高な目的のあることを知らないから、と言えるかもしれません。

2600年前、釈迦は「人生は苦なり」と道破しました。

それは19世紀のロシアも、現代の日本も、少しも変わりません。

物価高、夫婦の亀裂、介護の重圧、突然の事故や病気、災害など、想定外の苦悩が次から次へとやってきます。

ただ苦しむだけの一生に、どんな意味があるのか。

人生には、どんなに苦しくとも果たさねばならぬ、大事な目的がある。

だからこそ、人命は無限に尊いと説かれるのが仏教です。

ぜひ、こちらの記事もごらんください。

この記事を書いた人

ライター:齋藤 勇磨

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