「幸せ」と「本当の幸せ」の違いについてシリーズでお話ししています。
前回は、
お金、財、地位、名声といった幸せが「本当の幸せ」といえない2つの理由
(理由2)続かないから不安 (⇔安心)
というところまでお話ししておりました。
※途中からご覧になられた方は、まずこちらからお読みください。
幸せになれない理由
では何を得ても、心からの安心も満足もないのはなぜなのでしょうか?
これは非常に深い問題が潜んでいます。
その深い問題とは何でしょう。
それは、「死の不安」です。 死んだらどうなるか分からない不安が人類を覆っており、それが全ての人にとって重大な問題になっているのです。
こう聞きますと、
「死んだらどうなるって、死んだら無になるに決まっているだろう」
「この科学の発達した時代に、死後がどうこうって古いんじゃない?」
との反論が必ず出てくるでしょう。
そこで今日は、池田晶子さんという哲学者の一文をテキストに、この問題について一緒に考えてみたいと思います。
少しずつ区切りながらお話しいたします。
「死んだら無になるに決まってる」という人が見落としていること
現代文明は、ほぼ唯物論の文明ですから、“公式見解”としては、 多くの人は、死後の世界を信じていません。
より砕いた表現でいいますと、最近は、「人間もしょせん“物”なんだから死後の世界なんかないよ」という人が多い、ということになりましょう。
そして、自分は宗教的信念を所有しないと表明する人は、では死後をどう思っているかというと、“何もなくなる”と思っている。 “死後の世界”なんてものは“無い”、人は死ねば無になるのだと。
人間とは物質すなわち肉体だと見做(みな)すのが唯物論の基本ですから、肉体がなくなれば人間はなくなると考えるのは当然です。
しかし、“死ねばなくなる”派の人でも、そのことが正確に何を言っているいるのか、自分で理解していないことに気がついていないことが多い。
日常の会話や、言い回しの端々に、じつはそうとは思っていないことが見てとれることが多い。
たとえば人は、“今度生まれ変わるとしたら”と、平気で言いますよね。
あるいは“死んだ母が守ってくれる”、もしくは“向こうでお会いしましょうね”等々、死後の世界を想定しているのでなければあり得ない言い方を、人は大変よくします。
もし “死ねば何もなくなる”と本当に思っているのだったら、日常会話からその種の言い回しは消滅しているはずではないのか。
池田晶子著『暮らしの哲学』
しごくごもっともなことですね。
「死後は無い」といいつつ、本心ではそう思えないものがあり、それが無意識に言葉となって表れているのでしょう。
故人に対し、
「向こうでまた一緒に飲もうな」
「もうすぐお父さんのところへいける」
「草葉の影で見守っていてください」
ということを言ったり思ったりするのは決して珍しいことではありません。
また、
「冥福(めいふく)を祈る」
と、葬式でよくいいますが、「冥福」とは、「冥土(めいど)の幸福」のことです。
冥土とは、死後の世界ですから、冥福を祈るという言葉は死後があることが大前提となっています。
さらに話は続きます。
苦しみの根元
〝死ねばなくなる”と人が本当には思っていないことの何よりの証拠は、死への恐怖を所有しているというまさにそのことです。
だって、死ねばなくなるのだったら、なぜ死ぬのが怖いんですか。
怖がる人がいないんだから、怖いということもないはずです。
池田晶子著『暮らしの哲学』
「死後が有るか無いかは知識の問題で、死後が怖いのは人間の問題」ともいわれます。
「死後が無いと思う」「無いに決まってるじゃないか」という思いだけでは超えられない問題があるのです。
最後に、こういわれています。
と、このように考えてくると、だんだん整理されてきます。
人は“無になる”ことを恐れているのではなくて、“わからない”ことを恐れているのです。
死んだらどうなるかわからない、本当はこのことが怖いのです。
『暮らしの哲学』著:池田晶子
現代の哲学者が語った、死についてのお話し、いかがだったでしょうか。
最後に「死んだらどうなるかわからない」という問題に触れられていました。
仏教では、この「死んだらどうなるかわからない心」を「後生暗い心(ごしょうくらいこころ)」といい、専門用語で「無明の闇(むみょうのやみ)」といわれます。
現代哲学で論じられることが、すでに2600年前、仏教に説かれてあり、しかもこの無明の闇が晴れないかぎり、本当の安心も満足もないのだと教えられているのです。
無明の闇とはどのような心なのか。
無明の闇が晴れたらどうなるのか。
どうすれば無明の闇が晴れるのか。
人生の目的である絶対の幸福とはどのような幸せなのか。
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