病気

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なぜ生きる~障害を持つ子供からの贈り物~(7)朝風呂

こんにちは、増本です。

前回のお話は、こちらをごらんください。

今日は、朝風呂、というテーマでお話しいたします。

私の一日は朝風呂から始まります。

「朝と言えば、たいてい、どこの家庭でも慌ただしいのに、なんて優雅な一日の始まりなんだろう」と、うらやましく思われる方もあるでしょう。

いえいえ。実は、これも大事な、療育介護の一つなのです。

大切な朝の日課

障害を持ち、手足を自由に動かせない長男・真一は、夏の暑い日には、朝、目を覚ますと、顔も下着も汗びっしょりです。

春や秋は季節の変化に身体が追いつけず、暑がったり寒がったり。

冬は冬で、寒さで手先足先が冷え切っており、身体もかたく縮こまっていて、特に大変です。

皆さんの中にも、冷え性で苦しんでいる方がいらっしゃると思います。

でも皆さんは、本当に我慢できなくなれば、衣服や布団で調節したり、エアコンをつけたりといった、眠れない時の対処方法をお持ちではないでしょうか。

しかし自由に体を動かせない、言葉を発することもできない長男は、どんなに身体が冷え切っても、手足の血流が滞っても、ただジッと耐えるしかありません。

朝起きて、息子の顔を覗き込むと、1本ツーッと涙の筋があることも。

そんな息子の体をお湯につけ血流を促し、身体をゆっくりともみほぐしてやることは、大切な朝の日課なのです。

「関節技」にならないように

湯船につからせ、首から肩、手首足首、背中に脚と、順番にさすってやり、ゆっくりと回して血行を良くします。

気持ちの良い時に見せる笑顔は、かけがえのない私へのご褒美です。

「お兄ちゃんが起きた」の家内の声が聞こえると、私は服を脱ぎ、かけ湯をして体を洗って湯船につかり、準備万端、待機します。

まず母親が、熟練の技で、子供の顔色・呼吸を見ながら、優しく丁寧に、痛くないように、服を脱がせる。

動かせないから筋肉がつかず、細くて長くて危うい真一の手足。しかも寝起きで固まっている体から、服を脱がせて裸にするのは、ガサツな男には至難の技です。

柔道やプロレスに関節技というのがありますが、ほんの少しひねる角度が変わるだけで大の男が悲鳴をあげてギブアップ、そんな光景を見たことはありませんか。

すこし服の脱がせ方を間違えれば痛いだけでなくポキッといく心配さえあります。

男の私は、ただボーっとお風呂で待つしか能がありません。

次に、長時間、息子の体を支えたり、息子が急に暴れても湯船に落とさないようにお風呂で抱きかかえるのが男である私の役目です。

相手に合わせて湯加減を調節

そんな私の好みの湯加減は40度から41度。

あー極楽、極楽。

一方、息子にとっては、目を覚ますと急に布団をはがされ裸にされて、何が始まったのやら???

40度なんて温度は熱すぎて、特に冬場はもう地獄。

ドボンとお湯に入れられる子供は目が点になり、顔も身体も真っ赤っか。

心臓ドキドキ、涙目になっています。

あーごめんなさい、ごめんなさい。

いけません、いけません、何度同じ失敗をしたことか。

我慢、我慢、温水プールのような低い温度の浴槽で、じっと息子が来るのを待ちます。

足からゆっくりと湯船に入れて、顔を拭き、体をさすり、少しずつ少しずつ体をもみほぐす。

長男の身体が慣れてきたかなーと顔色見ながら、息子のペースに合わせて少しずつお湯を足していきます。

何度も同じ失敗を繰り返しながらようやく覚えてきました。

熱い湯にドボン!を反省

そんな真一の姿を見ながら、ふと、反省するのです。

私は周りの人に腹を立ててばかりいました。

私の現在の仕事は設備の管理、大きくて複雑な施設を維持管理することは、とても一人ではできません。

多くのメンバーが協力し、たくさんの人の手助けがなければ成り立たない仕事です。

また、この仕事に就く前は東京で素材開発をして販売する仕事をしていました。

携帯電話もまだ持てない時代、私が不在の時の仲間たちの顧客対応が成果に大きく影響する仕事でした。

施設の管理、物の製造販売、いずれもチームワークがとても大切です。

しかし、そんな私の腹の底は、どうでしょう。

「何その顔は、朝から何が気に入らないの!」

「なんで挨拶の一つくらいできんかな!」

「あいつは黙ってどこ行った!」

「長い時間いなかったけど、どこに行ってた、事後報告くらいしたらどう!」

「なんでこんなことさえできないの!」

情けないかな、余裕がなくなると、大切な仲間に対してさえ、こんな心が出てくるのです。

腹立てる私に、その都度、真一の声なき声が聞こえてきます。

「お父さん、自分はどうだったの? お友達をドボンとお湯につけてない?」

真一は、私に大切なことを思い出せてくれる、本当にかけがえのない息子です。

「・・・そうだね、お父さんも昔は、基本的なことさえできず、よく注意を受けてたよ。その頃の自分のことを忘れて、ああだこうだと、文句ばかりを言ってたね」

今の年齢になってようやくできるようになったことを、若い世代に即要求していなかったか?

自分だけ先にお風呂に入って体を温めていることを忘れて、相手が寒い外にいたことを忘れて、ドボンとお湯につけてはいなかったか?

私にとっての“丁度良い”は、相手には早すぎた、熱すぎた。相手の立場でまず考えないといけませんでした。

「挨拶しない」「不機嫌な顔」「報告しない」と腹立てる前に、ちょっと数を数えて落ち着いて。

挨拶したくない理由が、私の側にあるのでは。

相談をするきっかけを、私が与えていなかったのでは。

報告しにくい雰囲気を私が出しているのでは。

「礼儀の基本は相手の立場に立つこと」と尊敬する先生からいつも教えていただきますが、礼儀に限らず、すべてに通ずる基本。

腹が立って真っ赤な顔になりそうな時は、熱いお風呂で真っ赤になった息子の顔を思い出し、お風呂で10を数えるように、1、2、3と落ち着いて。

「腹を立てずに相手の立場に立つ」。また息子から、大事なことを教えてもらいました。

反省、冷静、落ち着いて、少しずつ半歩ずつ一歩ずつ、共に向上していきます。

(つづく)

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