病気2020.02.14

相模原・障害者施設事件が問う「なぜ生きる」｜命に差別なし、その理由は？

こんにちは、増本です。

平成28年７月、神奈川県相模原市の障害者福祉施設で、19人が殺害され、26人が負傷した事件の初公判が１月８日、横浜地裁で行われました。

被害の甚大さだけではなく、「経済性のない障害者は生きていても仕方がない」という被告の主張は、社会に衝撃を与えました。

テレビや新聞の報道の多くは、「命のかけがえのなさ」を主張はしても、その理由については触れられないでいます。

重度の障害を持つ長男・真一を、31年間、家族皆で介護してきた経験から、この事件が投げかけた重い問いについて、思うところを述べたいと思います。

人生最大の問いに息子が向き合わせてくれた

相模原市の障害者施設での殺傷事件は、私自身、重い障害を抱える子供がいますので、非常に胸が痛みました。

31歳になった長男は今も寝たきりで、歩くことも話すこともできません。

そんな息子の生きる目的とは何か。

この問いは、避けて通れない問題です。

一生懸命に障害者を世話している家族も、あの被告と対極にいるわけではないと思います。

今は何とか体力もあり、経済的にも、福祉サービスにも恵まれているから世話ができているとしても、もう一つ厳しい状態になったらどうか。

介護のために会社を辞めなければならない、借金しないといけないとなれば、「どうしてこんな子が生まれたのか」と思う心が、起きてこないとは言えないでしょう。

それでも、「この命にも尊い意味があるんだ」と言い聞かせ、皆、ギリギリのところで努力しています。

しかし、「尊い意味って何？」と問われた時、ハッキリした答えを持ち合わせていなければ、耐え切れず、心を支え切れないかもしれません。

だからでしょうか。縁が来れば、介護に疲れて親を殺したり、家に火をつけるなどの悲しい事件が後を絶ちません。

あのような犯罪をなくすには、生きる意味、命の重さ、「なぜ生きる」の答えを知るしかない。これが本当の結論だと思います。

「それが本当の人生なの？」息子の声なき声が聞こえてくる

私は学生時代に仏教に出遇い、生きる意味、「なぜ生きる」というテーマを聞きかじるようになりました。

やがて社会人になり、結婚して、長男が重度の障害を持って生まれてきた。

目の前に、いつ死ぬか分からない、将来どうなるのか見当もつかないわが子が生まれて初めて、「この子は何のために生まれてきたんだろう。人の命の重さって何だろう？」と子供の命の大切さが、そのまま自分の問題となったのです。

ちょうどその頃、世の中はバブル経済のまっただ中、何もかもが右肩上がりで成長し、寝転んで暮らしていても、来年は課長だ、年収1000万だという状況でした。

このままいけば昇進し、収入も増えていく。

そんな時、寝たきりの息子が、「それで本当に生まれてきてよかったと満足なの？それが本当の人生なの？」と声なき声で、常に問いかけてくるのです。

多くの偉業を成した豊臣秀吉も、臨終には「夢のまた夢」と後悔の涙を流しています。

そんな未来がやがて自分にもやってくる。

息子の「無言の説法」によって、このままではいけない、本当の生きる目的に向かって時間を使おうと、心に決めたのです。

そして本気で仏教を聞き、命の意味を知らされ、障害者も健常者も、民族も、性別・年齢も全く関係なく、すべての命がものすごく重い、尊い、価値のあるものだ、とハッキリしました。

あの被告の本当の誤りも分かります。

長男は、今も一進一退を繰り返しながらの毎日です。

ふだんは、男性の低い声やテレビの音にはほとんど反応しません。

ところが仏教の話になると、笑顔になったり声が出たり、私たちと同じところで笑ったり、静かになったり……、何か聞いているんだろうなと思わせる反応があるのです。

肉体の耳でなく、心の耳で聞いているのでしょう。

その姿に導かれて、私たちも一緒に仏教を聞かせていただき、息子の生きている喜びを感じています。

障害を持って生まれたわが子が、哲学者も大学教授も誰も教えてくれなかった「なぜ生きる」という「人生の最も大事な問い」に向き合わせてくれました。

私を正しい方向に導き、大切な忘れ物を、本当に忘れ物として教えてくれた先生なのです。

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