震災当時、小中学生だった世代が成人の時期を迎えました。
次世代を担う東北の若者たちの心の底には、目先の復興・繁栄ではごまかしきれない「人はなぜ生きるのか」の根源的な問いが、深く静かに流れているようです。
現地で取材すると、「震災のあと、生き残った自分には、何かやらなきゃいけないことがあるはず、でもそれが何だか分からない」と打ち明けてくる人が多いのです。
当時は幼かった人たちも、進学・就職など人生の岐路に立つと、自分の人生観が問われます。
震災で死を意識するようになったためでしょうか、悔いのない選択をしようと悩み、「なぜ働くのか」というテーマに関心を持つ人が増えているようです。
今年成人式を迎えた佐藤秀美さん(仮名)は、「震災の日のことは、今も脳裏に焼きついています」と語っています。当時のことを聞きました。
出られなかった卒業式
私の出身は、福島県いわき市四倉町です。
「校庭の真ん中に逃げろ!」という先生の号令で、当時小学6年だった私は、他の友だちと一斉に避難しました。
校舎の扉はガンガンと開閉を繰り返し、校旗掲揚のポールはグニャグニャになって揺れていました。
校庭は地割れを起こし、「これは現実?」と思わず目を疑いました。
水道管が破裂したため、今度は体育館に避難しました。
館内は、卒業式を間近に控え、紅白の幕で飾られていました。
親が迎えに来るまでの間、じっとしていられなくて、友達と行われるはずもない式の練習をしていたのです。
やがて両親と合流して自宅に向かいましたが、とても住める状態ではなく、近くの伯母の家を間借りしました。
進学するはずだった中学校は、津波で校舎が浸水。グラウンドは、テレビや冷蔵庫、瓦礫などで埋め尽くされていました。
さらに不安をあおったのが、ラジオから盛んに流れる原発事故のニュースでした。
外出時には、肌を露出しないように言われ、厚着で、ニット帽、マスクも着用しました。
役所からは、「もし被爆したらのんでください」と薬まで渡され、本当に怖かったです。
海沿いでは、同じくらいの年の子供たちがたくさん亡くなったと、人づてに聞きました。
何もかもが変わってしまい、どうしていいか分かりませんでしたが、周囲に心配をかけないよう、常に笑顔を心がけていました。
どうして私は生まれてきたの?疑問が幾つも湧いてきた
吹奏楽部に所属していた私は、震災後、がむしゃらにフルートの練習をするようになりました。
振り返るとやっていられませんでしたので、ただ前を向いて、そうするしかなかったんです。
5年後、進路を決めねばならない時期となりました。
当時は皆、世の中から”未来を背負う若者”として期待されていることを感じ、何かしら復興の役に立つ仕事に就きたいと話し合っていました。
私は、音楽で子供たちに生きる力を与えられたらと考え、中学校の音楽教員を目指すことに決めました。
でも、そこまでして社会の一員として生きる大切さが分からないのです。
「なぜ学校に行くの?」「なぜ働くの?」「どうして私は生まれてきたの?」。そんな疑問が幾つも湧いてきました。
また、時間がたつにつれ、街からは”命は尊い”という思いが薄れ、人間関係のトラブルや自殺など悲しいニュースが増え、耳にするたび、悲しみを覚えました。
震災の体験があったからこそ
教員を目指す私は、子供たちのいじめや自殺問題に取り組む中で、なぜ命を大事にしなければならないか、その大もとの抜けた議論ばかりの現状を感じていました。
そんな昨年の春、仙台市内の大学に進学した私は、ある日、知人の紹介で仏教の講座に参加し、驚きました。
命の大切な理由が、ハッキリ教えられていたからです。
それまで疑問に思っていたことが、「なぜ生きる」の言葉で浮き彫りになり、聞かねばならないことだと強く感じました。
やがて、「無常を観ずるは菩提心の一なり」と聞き、100パーセント確実な未来である死をありのまま見つめることで、初めて本当に明るい人生が開かれると知らされました。
震災は怖かったですが、あの体験がなければ、真面目に人生を考えることもなく、仏教を聞いていなかったと思います。
「なぜ生きる」の答えを知り、これから教師として出会うたくさんの子供たちが命について悩んでいる時、そばに寄り添って一緒に考えられるような教員になりたいです。
なぜ生きるのか、知りたい方へ
佐藤さんは、「生きることを苦痛に思い、ため息をついている子どもたちに、『人間に生まれてきてよかった』と言える心からの喜びを伝えたいです」と語っています。
もっと知りたい方は、ぜひ、お近くの仏教セミナーや講座に参加してみることをおすすめします。いま、幸せについて勉強するなら、仏教がいちばんです。
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