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荒凡夫の俳人・金子兜太さん死去に思う

こんにちは、齋藤勇磨です。

戦後日本を代表する俳人の金子兜太(かねこ・とうた)さんが、平成30年の2月20日夜、98歳で亡くなりました。

金子さんといえば、「お~いお茶 新俳句大賞」の選者といえば、身近に感じられるかもしれません。現代俳句協会名誉会長で、亡くなるまで朝日俳壇で選者を務めていました。

2月22日『朝日新聞』1面をはじめ、各紙がその死を悼んでいます。

荒凡夫の俳人・金子兜太さんは、なぜ戦後注目を集めたのか


(Wikipediaより)
(CC 表示-継承 4.0
File:Tota Kaneko novembre 2015.jpg
作成: 2015年12月10日)

埼玉県生まれの金子兜太さんは、東京大(当時は東京帝大)経済学部卒。日本銀行に入行後、海軍主計中尉として南洋のトラック島に赴任しました。

戦後は日銀に勤め高度成長を経験しながら、1974年に退職するまでサラリーマン生活と作句の両立を続けました。

22日の『朝日新聞』で、日本文学研究者のドナルド・キーンさんは、「戦争を知る人でものを書く(中略)大事な人でした」と述べています。

激戦で生死の境をさまよった経験から反戦の思いは強く、社会的な発言にも積極的でした。
平和への思いが、戦場であったトラック諸島を去る時に詠んだ代表句「水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る」や、原爆を詠んだ「彎曲(わんきょく)し火傷し爆心地のマラソン」などの句ににじんでいます。

その「反骨と反戦の五七五」は、俳句に、社会性や時代性、思想を取り込む革新をもたらしたといわれ、戦後の俳句改革運動をリードしました。

荒凡夫の俳人・金子兜太さんの目指したものとは

『天声人語』によると、金子兜太さんは季語や型にとらわれない作風で、「『ハナミズキ』という季語と『国会前』という言葉を区別せず、自由に使えばいいのです」と語っていたといいます。

また、22日の『読売新聞』で、現代俳句協会会長の宮坂静生さんは金子さんのことを、「俳句は、綺麗な文字を並べ立てるのではなく、生の人間が体から絞り出した実感を凝縮したものだ」と説いていた、と振り返っていました。

人間性を発露する思想は、江戸時代の俳人・小林一茶にならって自らを呼んだ、「荒凡夫」の3文字に現れていると言われます。

NHK特集「94歳の荒凡夫~俳人・金子兜太の気骨~」では、なぜ「荒凡夫」というようになったか、番組で次のように話していました。

一茶は、60歳の時に毎日毎日短い日記をつける人で、正月の文にこれから自分は「荒凡夫」で生きたいと書いている。私はそこから見つけた言葉ですが、煩悩にしたがって生きた男で全く値打ちがないやつだと、だからもうこんな男はこのまま死んでしまえばいいのだから、しばらく生けるだけ生かしてください、それで「荒凡夫」で生かせてください、ということを書いているんですね。

荒凡夫の俳人・金子兜太さんの境地に迫る第一歩

「凡夫」とは仏教の言葉で、人間のことです。

浄土真宗の書物『一念多念証文』には、「凡夫」について次のように書かれています。

「凡夫」というは無明・煩悩われらが身にみちみちて、欲もおおく、瞋り腹だち、そねみねたむ心多く間なくして、臨終の一念に至るまで止まらず消えず絶えず。
(人間というものは、欲や怒り、腹立つ心、妬みそねみなどの、塊である。これらは死ぬまで、静まりもしなければ減りもしない。もちろん断ち切れるものでは絶対にない)

また、日本で最も読まれ、戦場に多くの若者が携えたといわれる有名な仏教書『歎異抄』にも、次のように書かれています。

煩悩具足の凡夫・火宅無常の世界は、万のこと皆もってそらごと・たわごと・真実あることなし
(火宅のような不安な世界に住む、煩悩にまみれた人間の総ては、そらごと、たわごとであり、まことは一つもない)

むごい戦死を目撃し、平和とヒューマニズムを望んでいた金子さん。

東日本大震災後に詠んだ句にも、「人体冷えて東北白い花盛り」「津波のあと老女生きてあり死なぬ」と、生きていることの尊さを訴えていました。

人は、何かを信じなければ生きていけません。しかし、この世は全て無常であり、信じたあとから裏切られていきます。しかもそんな必ず裏切る「そらごと・たわごと」しか知らない「煩悩具足(煩悩100%)」がすべての人間の実態ならば、なぜ、「生きることは尊い」といえるのか。真剣に見つめ続けた、金子さんの生涯でした。

金子さんは、常々「俳人には、俳句を作る以前に、エネルギーを持った存在者として人間を磨くことが必要だ」と話していたそうです。
よい俳句を作るためにも、人間性を磨き、豊かにする古典『歎異抄』をひもといてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

ライター:齋藤 勇磨



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