【春の日記】田中進一の世界(三月十四日)
開かれたホームページには、『春の日記』というタイトルがついていた。そこには何の前置きも説明もなく、こう書かれてあった。
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フライザイン
人類三千年の謎を解く鍵
最も大切な謎を解くための
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「フライザイン」? 「フライザイン」って何だろう?初めて聞く言葉だ。そもそも三千年の謎ってなんだ?
「春の日記」は「〝春奈〟の日記」ともとれるし、ただ季節の「〝春〟の日記」ともとれるけれど、これは春奈が書いた文章なのだろうか?
それにしても、自分がつくったホームページなら、パスワードをノートに書いたりするものだろうか? まあ、ないこともない、か。いや、考えてみれば、アドレスの方こそおかしい。普通はアドレスはノートに書くことはない。「お気に入り」に登録しておけば、それで済むことだ。
なら、誰かから教えてもらったホームページなのだろうか? それとも逆に、誰か僕のほかに見舞いに来る人があって、その人に伝えるために書いておいたものなのだろうか? もしくは、僕にそれとなく知らせるため?
現時点の情報では、答えは出せそうもなかった。
「ふう」
窓ぎわに足を運んで息を吐く。窓を開けると心地よい涼しさが部屋に入ってきた。目を閉じて胸の奥まで息を吸い、心を落ち着けようとした。
《僕なんかが、一カ月で〝生きる意味〟を見つけられるのだろうか?》
じわじわと不安が、世界を覆いつくしていく。
《どうか、最後の教授が、すでに答えを知っていますように》
瞼を開き、星を眺める。
mp3プレーヤーを手に取り、大好きな『Let it be』を聴いた。でも今は、とても、 Let it be(なすがまま)という気持ちにはなれず、ふてくされたように床に横たわった。
電気のひっぱりコードというものが、手の届くところまで垂れている。それを意味もなく、猫がするみたいにピンピンと弾いた。
そう、何の意味もなく。
タイムリミットまで、あと二十七日
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