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円山応挙に学ぶ|謙虚さが生み出す真の芸術

こんにちは、齋藤勇磨です。

「お宝は何ですか?」

テレビ東京系列の人気番組『なんでも鑑定団』で、おなじみのセリフですね。

壺や絵画、掛け軸など、家に眠る「お宝」は本物か。

どれほどの価値があるのか。

専門家が判定しますので、依頼人は期待と不安でドキドキワクワク。

想定外の額が表示されて跳び上がって喜ぶ人もあれば、まさかのニセモノで大ショックを受ける人もありますね。

その番組の中で、先日、円山応挙の掛け軸が出品されていました。

今にも動きだしそうな、かわいい犬や、ネズミの絵を描いていますが、いったい、どんな人物だったのでしょうか。

彼の人柄を彷彿とさせるエピソードがありますので、紹介しましょう。

円山応挙の猪と老人の指摘

江戸時代中期の画家・円山応挙(1733-1795)は、京都で活躍しました。

伝統的な日本絵画の世界に、対象を忠実に描く「写生」という考え方と技法を採り入れ、絵画の新しい潮流を生み出した人として知られています。

ある時、円山応挙が、寝ている猪の絵を頼まれたことがありました。

応挙はまだ、野生の猪の寝ているところを見たことがなかったので、その絵が描けず、つい延び延びになっていました。

いつも薪を持って彼の家に出入りしている女性に、「お前は猪が寝ているところを見たことがあるか」と尋ねると、その女性は、「山中で時々、見ることがございます」と言います。

そこで彼は、「今度見かけたら、ぜひ、すぐに知らせてくれ」と頼みました。

1カ月ほどして、先の女性から知らせが入りました。

家の後ろの竹藪に、猪が寝ているのを見つけた、というのです。

応挙が早速、門人2人を連れていくと、猪は相変わらず竹藪で寝ています。

彼の絵の特徴は、描写の細かさと正確さです。

猪が目覚めないよう、神経を使いながら、応挙はその場で見たままを写生しました。

女性に礼を言って家に帰ると、すぐに絵を清書して、仕上げに取りかかりました。

毛の1本1本に至るまで、緊張感を持って描いた絵が完成した頃、たまたま彼の家に、1人の老人が京都北部の鞍馬からやってきました。

老人も、よく猪の寝姿を山で見かけるというので、応挙は描き上げたばかりの絵を、意気揚々として見せました。

老人はしばらく絵を見つめていましたが、やがて言いました。

「この絵は大変よくできていますが、ここに描いてあるのは、寝ている猪ではなくて病気の猪に違いないですね」

応挙が驚いて理由を尋ねると、「寝ている猪は、安眠中でも、毛が全て立っていて、足を折っていても、見るからに勢いがあるものです。一方、病気の猪は、ちょうどこの絵のように毛が寝ていて、だらっとしています」と答えました。

自分が描いたのは、寝ている猪ではなく、病の猪だったのか。

応挙は自分の軽率さを恥じましたが、日本画は、洋画のように一度描いた絵を上から塗って修正することはできません。

彼は、せっかくの描き上げた絵を処分すると、老人に寝ている猪のありさまを詳しく尋ねました。

幸い、猪の様子を詳しく教えてくれた老人の言葉を元に、応挙は、一から、絵を描き改めたのです。

4、5日すると、先の女性がやってきました。

「おかしなこともあるものです。あの猪は翌朝、竹藪の中で死んでしまっていました」と言うので、応挙は、かの老人の優れた観察力に感心し、老人の来るのを心待ちにしていました。

10日ほどして老人が来ました。

応挙は早速、描き直した絵を見せたところ、老人は驚嘆して、「これこそ、本当の寝ている猪です」と言います。

応挙は厚く老人に礼を言ったと言われています。

実るほど頭をたれる稲穂かな

昔から、「実るほど 頭をたれる 稲穂かな」という言葉があります。

稲というのは、田植えの後、まだ若くて青いうちは、まっすぐ頭をそりかえらせて立っています。

ところがだんだんと成長して、実りの秋が近づくにつれ、頭が重くなって、頭を下げるようになってきます。

稲穂は実れば実るほど、頭をたれるものなのです。

人間でも、まだ若くて青いといわれる人に限って「自分はエライ」「自分ほどできる者は他にはいない」と自惚れているものです。

それが、人間的に成熟して人格が形成されてくるほど、謙虚で腰が低くなり、人の意見に耳を傾ける度量の広さが出てきます。

稲穂が実るほど頭をたれるように、人間も、立派な人ほど頭が低くなってくる、ということです。

代表作「雪松図屏風」など、数々の名画を残している絵の大家であった応挙が、誤りを指摘する素人の意見に素直に応じ、せっかく描き上げたものを捨て、一から描き直すことは、簡単ではなかったでしょう。

人の意見に耳を傾ける謙虚さは、対象の本質に迫ろうとする飽くなき探究心の表れではないでしょうか。

この謙虚さこそ、彼を歴史に残る画家に押し上げた原動力だったのです。

この記事を書いた人

ライター:齋藤 勇磨

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