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過酷な体験・トラウマ体験を成長へと変える“ベネフィット・ファインディング”とは

こんにちは、ライターのゆうです。

過去を振り返れば、思い出したくもない悪い出来事、恥ずかしい体験が、誰しもにあると思います。

いわゆるトラウマ体験ですね。

トラウマ(=心的外傷・心に負った深い傷)になるような体験なんてしたくないという思いや、苦しい体験をできる限り避けることが大切だという考えを持っている人は多いと思います。

実際にトラウマ体験をしたことで、そのときの状況が頭から離れず、平常時でも極度に不安な気持ちになり(=心的外傷後ストレス障害)、日常生活に支障をきたすこともあります。

ところがトラウマや喪失の経験は耐えがたいほどの苦しみをもたらすいっぽうで、前向きな変化をもたらすこともわかっているのです。

前回の「トラウマ体験への対処法」記事でも参考にした、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル著)をもとに、

・トラウマ体験がもたらす前向きな変化とは具体的にどのようなものか
・どうすればトラウマ体験を心身の成長へと変えることができるのか

をご紹介していきます。

トラウマや喪失によって起きる“心的外傷後成長”

トラウマや喪失がもたらす前向きな変化は「心的外傷後成長」、あるいは「逆境下成長」といわれています。

この心的外傷後成長は決して、めずらしいことではありません。

たとえば、テロ攻撃にさらされたイスラエルの若者たちの74パーセントには、心的外傷後成長が見られたといわれています。

また、HIV/エイズの女性患者の83パーセントは、診断や病気をめぐって自己の成長を実感していること、

さらに、任務遂行中にトラウマを体験した救急隊員の実に99パーセントは、成長を実感していることがわかっているのです。

前回の記事でもお話ししたように、これはトラウマ体験を肯定し、「あえて苦しみに身を投じなさい」ということでありません。

トラウマ体験によって精神的に非常につらくなり、立ち直ることが難しい人が多くいるのも事実です。

しかし「こんな最悪な経験した私は、もう明るく生きることなんてできない」という考えも誤りであり、心的外傷後成長という変化が起きることも大いにあるのです。

トラウマ体験をした人に起こる、数々の素晴らしい変化

ではトラウマから起きる大きな変化とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

スタンフォード大学の精神医学名誉教授 アーヴィン・D・ヤーロム氏は、『がんの末期患者に関する報告書』のなかで、死と向き合ったことで患者がどのように変わったかを詳細に述べています。

その報告書によって、がんの末期患者は

・つまらないことで大騒ぎしなくなり、自制心が身につく
・やりたくないことをするのをやめる
・家族や友人たちともっと心を開いて話す
・未来や過去ではなく、完全にいまを生きるようになる
・すべての存在に心から感謝する気持ちが生まれる

と、心に劇的な変化が生じ、生き方もとても前向きになっていることがわかります。

自制心が身についたり、やりたくないことはやめられたり、大切な人に心を開いて話したり、すべてに感謝できるようなったりしているのです。

普段、こんなことが1つでも起これば、人生は素晴らしいものと思えるようになりますよね。

そのような変化がすべて起きるとなれば、本当にすごいことと感じます。

ほかの調査でも、トラウマを体験した人は、

・以前よりも周りの人たちに対する親しみを感じるようになり、思いやりが深まった
・自分は思っていた以上に強いことがわかった
・以前より自分の人生が価値あるものに思えるようになった
・新しい生き方を確立できた

という成長がもたらされていることも、わかっています。

心的外傷後成長を遂げるポイントは“ベネフィット・ファインディング”

それでは、心的外傷後成長を遂げるには具体的にどうすればいいのでしょうか。

ポイントとなるのは、“ベネフィット・ファインディング”の実行です。

ベネフィット・ファインディングとは、ベネフィット(=ためになること)をファインディング(=見つける)するということで、「逆境のなかにも、よい点や得るものがあると考えること」を指します。

私達は困難にぶつかると視野が狭まり、マイナス面やネガティブな要素ばかりに目がいきがちになります。

「こんなことになって、もう最悪」
「なんで自分がこんなひどい目に遭うのか」
「もう手の施しようがない…」

などです。

もちろん、事態を悪化させないためにリスクに注目することも大切ですが、そればかりを見ていれば気持ちも落ち込み、行動意欲も下がっていくでしょう。

一見、悪化しているような状況でも、得られるもの、プラスの要素もあるはずです。

そこに意識を向けることがベネフィット・ファインディングです。

ベネフィット・ファインディングの実行によって

・うつ病や心臓病のリスク低下
・免疫機能の強化
・結婚生活に対する満足度の向上

など、さまざまな効果につながることがわかっています。

困難な状況でもよい点に目を向けることは、なぜ役に立つのでしょうか。

それは「マインドセット効果」が働くから、といわれています。

マインドセット効果の威力

マインドセット効果とは、物事に対する見方(=マインドセット)を変えることによって行動が変化し、現実が思った通りの方向へ変化していくことをいいます。

1.「厳しい状況でも、よい点を見つける」

2.「『確かにつらい状況だが、きっと乗り越えられる』と将来への希望が持てて、ストレスに対処できる自信が得られる」

3.「状況がよくなるよう積極的に行動する。周囲のサポートも上手に利用する」

4.「行動したことで自己成長し、状況も改善する」

このように、見方を変える(1)ことで、行動意欲が高まり(2)、実際に行動することで(3)、状況はよくなっていく(4)のがマインドセット効果なのです。

よい面を見ることは、脳科学的にも効果があるとわかっています。

ポジティブな要素に意識を向けると、脳の左前頭葉(やる気や能動的な行動をつかさどる部位)が活性化し、自制心が強まるそうです。

つまり、躍起になって後先考えずに行動したり、あるいは無力感に陥ったりすることを防ぎ、優先すべきことにいち早く取り組めるようになるのです。

ベネフィット・ファインディングの注意点「“現実の苦しみから目をそらす”はNG」

ただ、ベネフィット・ファインディングの注意点として、現実の苦しみから目をそらすべきではない、といわれています。

とにかく楽天的に考えようとしたり、悪いこともすべてよいことだと考えたりするのはベネフィット・ファインディングではなく、行き過ぎたポジティブ思考です。

ものごとのよい面と悪い面、両方を認識できるほうが、長期的にみた場合には、よい結果につながるともいわれています。

体の疲労や痛み、将来への不安などはごまかさずに話すようにする。

痛みや疲労が軽減するような処置をしたり、不安が小さくなるように対策する。

その上で、この経験を通して学べたこと、成長できたことに注目するのが大切です。

ストレスを力に変えるエクササイズ「逆境のなかでもよい面を見つける」

ではベネフィット・ファインディングは具体的にどのように実践すればいいのでしょうか。その方法をご紹介します。

ステップ1

いま現在の困難な状況や、最近、強いストレスを感じたことを思い出してみましょう。

ステップ2

そのような状況を経験したことで、なにか得たものはあったでしょうか。気づきを書き出してみてください。

例)

自分の思いがけない強みに気づいた、
人生はかけがえのないものだと思うようになった、
周りの人たちとの関係が深まった、
自分の新しい可能性を見出だせた、など。

仏教で説かれる「ありのまま見つめる」正見の大切さ

逆境のなかで、現実から目をそらさずに、それでいて、よい点を見つけようとすることが大事、ということをお話ししてきました。

このような見方をする大切さは、仏教でも説かれています。

仏教に「正見」という言葉があります。

「正見」とは、「ありのままに見る」ということです。

本当は困難や苦痛があるにもかかわらず、それらを見ようとせずに無理に前向きに考える楽天的思考でもありません。

また、マイナスの要素をどんどん膨らませて、いたずらに不安を感じるような悲観的な見方をするのでもありません。

どちらにもかたよらず、物事を正しく、ありのまま見ることが、精神的な成長、困難からの立ち直り、根本的な問題の解決に必要です。

そのような見方をすることが仏教でも勧められています。

悪い面をごまかすのでも、悲観的に考えすぎるのでもなく、現実をしっかりと見つめた上で、本当のプラスの面を見ていきたいですね。

参考文献:
『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル著 大和書房)
『ハーバードの人生を変える授業』(タル・ベン・シャハー著 大和書房)

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この記事を書いた人

ライター:ゆ う

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