前回のお話は、こちらをごらんください。
私は設備管理の仕事をしています。
設備に異変があると携帯電話にメッセージが届くシステムとなっています。
夜中でも誤作動でも機械は情け容赦なく自動的に電話を鳴らします。
警備会社と契約している施設では、異常発生時に警備会社が個々の施設の担当者に電話をかけます。
担当者につながらない場合、私のところに電話がかかってきます。
みんな夜は熟睡なのでしょう。
年に何度か電話がかかってきます。
「増本さんはよく目が覚めますね」と言われます。
加齢の影響もありますが、彼のためでもあります。
今日のお話は「眠るな、眠れ」です。
眠るな、眠れ
重度の障害を持って生まれて来た我が子、真一。
子供も年齢を重ねると身体はそれなりに大きくなりますが、動けないので筋肉がつきません。
しゃべれませんし、柔らかいもの以外食べられませんので、あごも舌も充分には発達しません。
医学的なことはよく分かりませんが、眠っているとその小さい口の中で舌が気道を塞いでしまうようです。
横向きにしていればまだ喉にすき間が空くのですが、仰向けになると窒息してしまいます。
三角のマットを添わせて横向けにしたりはするものの、いつしか自然と仰向けに。
抱きしめて横向きにしてみても、親が眠って力が抜けると子供はまた仰向けに。
30分おきに起きては姿勢を確認しなければ、喉が詰まって大変なことになってしまいます。
子供よ眠れ。
そのために、親は眠るな。
合宿や受験勉強、1日2日ならまだ眠らなくても我慢はできますが、毎日の生活では少しつらいです。
ボクサーは時計を見なくても3分間が分かる
かつて東条英機を戦争犯罪人として処刑することが決まった時のこと。
獄中で決して自害させないようにと、看守が30分ごとに生死を確認する必要があったそうです。
そのため、30分ごとに彼を起こしては、生きていることを確認したと聞きます。
東条英機、処刑にのぞみ、これでやっと伸び伸びと寝ることができると詠んだ辞世の句が今も残っているそうです。
眠れないとは、かくも辛いものなのか。
私が難しい時には、母親が最後の砦。
ボクサーは時計を見なくても3分間が分かると言いますが、電話も目覚ましも必要なく体内時計が、母親の愛情が30分ごとに目を覚まさせます。
脱帽です。
親も子も、そんなにしてまでなぜ生きる。
障害を持つ子供を授かって改めて、今の日本に生まれた私たちは本当に幸せだなあとつくづく感じます。
流した涙の一滴一滴が真珠に
行政も福祉の方々も、また心優しい周囲の人たちも、障害児たちを物心両面で支えてくださいます。
世界に目をむければ、五体満足な子供たちが戦禍の中、飢餓の中、苦難の中を逃げ惑い生きています。
毎日のように尊い命が理不尽に失われています。
同じ日本でも80年ほど前、戦争中ならばどうなっていたことか。
せっかく恵まれた環境にあって「生きよ、生きよ」の叫び声が空しく響かないよう、「生まれてきて本当によかった。よくぞこの世に生まれたものぞ」と心底喜べる幸せにならなければなりません。
「人生の目的を達成したとき、一切の苦労は報われ、流した涙の一滴一滴が、真珠の玉となって戻ってくる」と教えられます。
そんな生きる目的を明示しなくては。
責任は重大です。
(つづく)
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