幸せとは

幸せとは

【三千年を解くすべをもたない者は闇のなか、未熟なままにその日その日を生きる】田中進一の世界(三月十二日)『フライザイン~死に対して自由な心を求めた僕と彼女と妹の物語』

【三千年を解くすべをもたない者は闇のなか、未熟なままにその日その日を生きる】田中進一の世界(三月十二日)

 僕は、頑張って哲学教授を訪問し続けた。
 そのたび、いろんな猫が入れ替わり僕を応援してくれた。まあ、傍にいただけなんだけれど。
 それは時に、尾曲がり猫だったり、三毛猫だったり、白猫だったりした。ともかく僕は、猫と話をしているとだんだん気持ちが落ち着き、腹が据わってきて、扉を叩くことが出来たのだ。

 毎回ワンパターンのやり方で教授にお願いすると、適当な哲学書を教えてもらえたし、大概、「感心だね」とかなんとか、それなりの〝 オホメの言葉〟を頂戴した。だが、それに付いて回る〝 生きる意味〟についてのコメントがいちいち気になった。

「生きる意味は臨終になってみないと分からないことだな」
「生きる意味が大事だとは書かれてあるが、それ以上のことは語られていないよ」
「理想を追い求めるのは、若さの特権だね」
「そういうことを考えるのはとても大切だ、でも答えはない」

 やがて、どの教授も生と死が自分の問題になっていないような気がしてきた。結局、学問のための学問、言葉遊びに思える。本気で自殺を考えている人を前に、教授は僕に言ったのと同じ言葉を告げられるものだろうか? 少なくとも《この先生から聞きたい》と思わせる教授はいなかった。一人も。

 問題は別のところにもあった。哲学書が、全然〝 読めない〟という最も基本的なこと。難解すぎてとても太刀打ち出来ないのだ。かといって、あの教授陣に尋ねるのは時間の浪費に思えた。そうこうしているうちに、回れなかった哲学教授一人を残し、今日は時間切れになった。

 帰り道、閉店間際の本屋に飛び込んだ。そこで、『ソフィーの世界』という本を見つける。世界一分かりやすい哲学書といううたい文句だから僕にはピッタリじゃないかな。ただ、やたら分厚いので読み通す自信はない。

 最初に、
「三千年を解くすべをもたない者は闇のなか、未熟なままにその日その日を生きる」
というゲーテの言葉が引用されていた。

 パラパラめくると、なるほど分かりやすそうだ。その中に、「〝なぜ生きているのか〟、への関心は、人間がこの惑星に生きてきたのとほとんど同じくらい長いこと議論されてきたことであり、衣食住の問題が解決されてもなお残る、すべての人、共通の問題である」と書かれてあった。
「そんな大事な問題だったのか」。いまさらながら、思わずそんな言葉が口から洩れた。

 それにしても、なぜ妹は、あんなことになってしまったのだろう? そもそも僕たちはいつから仲が悪くなってしまったのだろう? 小さい時は、あんなに仲が良かったのに。
「ふう」
 ともかく僕としては、最後の教授にすべてをかけるより道はない。

 mp3プレーヤーの再生ボタンを押すと、ポールが語りかけるように「ヘイ・ジュード」を歌い出した。それは、「悲しい歌だって気持ち次第で明るくなるさ」というメッセージ。
 哲学書をだらりと手に持って周りの景色を見渡す。名もしらぬ薄汚れた鳥が、プレハブの屋根の上をトントンと音を立て、跳ねながら歩いているのを、白猫が興味津々に見つめていた。
 
タイムリミットまで、あと二十九日

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