“ストレス”という言葉を聞くと、どんなことを思い浮かべるでしょうか。
「仕事が激務で苦しい」
「人間関係がうまくいかず、イライラしている」
「思うように物事が進まず、気をもんでいる」
というイメージが湧いてくるかもしれません。いずれも悪いイメージですね。
ストレスは私たちに悪影響を与えるものであり、できる限り避けるべきもの、ストレスは抱え込まずにリラックスすることが大事、と思っている方が多いと思います。
ところがストレスには悪い面ばかりではなく、考え方次第で
・自制心が強まって、相手に対する思いやりを持てる
・プレッシャーが和らぎ、仕事に大きなやりがいを感じる
など、ストレスから恩恵を得ることができるのです。
前回の記事では、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル著)をもとに、身体に生じるストレス反応を変えて、恐怖や不安といった気持ちを調整し、勇気や思いやりへと変える方法をご紹介しました。
今回は、ストレスを自己成長への機会と変え、困難を乗り越える方法をご紹介していきます。
ストレスに押しつぶされるか、ストレスを成長の機会にするかを決める“成長思考”
学業や仕事、家庭生活が思い通りにいかない時期、ストレスの多い時期を過ごしたことは、誰しもにあると思います。
今がまさにそのような時期という方もいるでしょう。
そんな時期はいち早く過ぎ去ってほしいと思いますし、そんな経験はもうしたくないとも思いますよね。
しかし私達は困難でストレスの多い時期にこそ成長することができるのです。
ストレスの多い時期に、
・無力感に襲われ、長期間落ち込んでしまうか
・困難を乗り越えて、成長できるか
のどちらになるかは、「成長思考」が鍵を握っている、といわれています。
成長思考とは、「ストレスの多いときでも人間には成長する能力が備わっていて、実際に成長できる」という考え方のことです。
研究によれば、成長思考を持てば、ストレスは学びと成長に役立つことが明らかになっています。
「この苦しみからも、きっとなにか得られるものがあるはずだ」と信じることでストレスから勇気が得られ、精神的に成長できるのです。
つらい経験のない人ほど健康リスクが高く、幸福度も低い?つらい経験がもたらす意外な効果
ニューヨーク州立大学バッファロー校の心理学者、マーク・D・シーリー氏は、2000名のアメリカ人を対象とした4年間の大規模な研究を行いました。
それは被験者に、過去にどれくらいつらい出来事(トラウマ体験)をしてきたかを質問し、その経験数とその後の4年間の健康状態との関係を調べたものです。
つらい出来事とは、たとえば、
・深刻な病気やケガ
・友人や愛する人の死
・経済上の大きな問題
・離婚
・身の安全が危ぶまれる地域や家庭環境での生活
・虐待や性的暴力の被害
・火事や洪水などの自然災害による被災
などの項目が挙げられ、これらの項目に当てはまる出来事すべてを回答してもらいました。
一人あたりの平均の回答数は8つ、ゼロと答えた人(つらい出来事をまったく経験しなかった人)もいて、それは全体の8%、もっとも多かった人の回答数は71もありました。
そして、調査結果を分布したところ、U型曲線が表れたのです。
グラフの縦軸は「逆境を経験した数」、横軸は「健康上のリスク」です。
このグラフから、逆境を経験した数が中程度だった人たちが、もっとも健康上のリスクが低かったとわかりました。
さらに興味深いのは、逆境を経験した数がもっとも多かった人たちだけでなく、もっとも少なかった人たちも健康上のリスクが高いとわかったことです。
もっとも多かった人たちと少なかった人たちは、いずれもうつ状態になることが多く、健康上の問題も多く、人生に対する満足度は低くなっていたのです。
この結果を聞くと、「つらい出来事を多く経験した人の健康面にリスクがあるのは納得できる。けれど、トラウマ体験のまったくない人の健康面にリスクがあるのはおかしい」という疑問を持たれると思います。
「あまり逆境を経験したことのない人たち」のほうが、「ある程度、つらい経験のある人たち」よりも幸福度が低く、健康状態も劣っていた…。
なぜこのような結果となったのでしょうか。
「あえて苦しんだほうがいい」は誤解!苛酷な体験をしたときの適切な見方とは
シーリー氏の研究から、「人生のもっともつらい経験のおかげで、心身ともに強くなれた可能性が高い」ことが推測されます。
つらい出来事を経験しても、先で紹介した“成長思考”を持つ人は、ストレスへの対処法を学んで心身ともに成長し、それらによって健康上のリスクが低く、より幸福になったと考えられます。
こう聞くと、それでは、レジリエンス(=逆境からすばやく立ち直る力)を強化するためには、どんどん苦しんだほうがいいのではないか?とも思われるかもしれません。
悲劇の体験、トラウマ体験を肯定するような結果のようにも感じますね。
しかしこの結果は「あえて苦しみに身を投じなさい」ということではありません。
トラウマ体験がすべてレジリエンスの強化につながるとは限らず、つらい出来事から立ち直ることができず、精神的に苦しまれている人が多くいるのも事実です。
あえて苦しみに身を投じたことで、取り返しのつかないことにもなり得ます。
いっぽうで、いくら痛みや苦しみを避けたいと望んでも、トラウマや喪失、苛酷な逆境をまったく経験せずに生きていくのはほぼ不可能ですね。
大切なことは、あえて苦しむのでも、苦しみを避け続けることでもなく、苛酷な体験をしたときに成長思考を持つこと、
すなわち、「この苦しみからも、きっとなにかプラスの作用があるはずだ。この経験は私に成長をもたらしてくれるだろう」という見方をすること、といえるのです。
ストレスを力に変えるエクササイズ「逆境からの気づきを書き出す」
では、ストレスを感じたときに、つらい体験をしたときに、それをレジリエンスを高めることにつなげるにはどうすればいいのでしょうか。
具体的なエクササイズをご紹介します。
ステップ1
大きなストレスを感じながらも、あきらめずにがんばり抜いたり、大切なことを学んだりしたときのことを思い出してみましょう。
例)部活動、受験勉強、就職活動、難しい仕事、人間関係(家族、パートナー、上司・部下)の問題、自然災害、闘病など
ステップ2
次の質問に対する答えを考えて、書いてみてください。
「そのときの経験によって、逆境を乗り越えるために、どのような方法を学びましたか?」
「その経験のおかげで、あなたは以前よりも強くなりましたか?」
これまでどんな困難を乗り越えてきたかを振り返ることで、自信を持つことができ、その際に学んだ困難への具体的な対処法、考え・気持ちの切り替え方を再確認することができます。
それらは今後、逆境にぶつかったときに、とても役立つでしょう。
“2600年前にすでに解明されていた”逆境の乗り越え方
逆境に直面しても、成長思考を持つことで、苦しい状況を乗り越えられ、自己成長につながることをお話ししてきました。
このように、物事をどう捉えるかがいかに大切かということは、心理学で教えられていることですが、実は、2600年前に説かれた仏教でも「物事をどう見て、どう感じるか」、すなわち“心”が最も重要であると教えられています。
仏教では、私達の行いを「業(ごう)」といわれ、その行いには3種類あると説かれています。
これを三業といいます。
三業は、
・口業(口の行い、しゃべること)
・意業(心の行い、心でいろいろなことを思うこと)
です。
先でお話ししたように、この三業の中で、最も重視されているのが心の行い(意業)です。
それは、私達は心で思ったことを口にして、心で思う通りに動いているから、つまり身体や口の行いのもとになっているのが心だからです。
「つらい経験はなんとしてでも避けるべきだ」とか、「逆境にぶつかったらおしまいだ」という心持ちでは、実際に苦しい事態になったとき、自信を失い、自暴自棄になり、立ち直ることが難しくなります。
それとは逆に、「過去に数々の困難を乗り越えてきたのだから、今回も大丈夫」と考えれば、自信を持てて、苦しみへの対処法を実践していけるのです。
プレッシャーがのしかかったときこそ、自分の心に注目し、成長思考を思い出してみてください。
参考文献:
『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル著 大和書房)
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