外国語を学んだり、スポーツジムで身体を鍛えたり、途中で口を挟まずに相手の話を最後までしっかり聞いたりするなど、身につけたい習慣はないでしょうか。
あるいは、寝る前にずっとスマホを見てしまったり、甘いものを食べ過ぎたり、家族につい小言をいってしまったりなど、やめたいと思う習慣はないでしょうか。
このような習慣を身につけたい、またはやめたいと思って取り組んでも、三日坊主で終わってしまった経験は、一度や二度ではないかもしれません。
三日坊主で終わらせないためにはどうすればいいのでしょうか。
習慣化のヒントとして、ぜひ知っていただきたいのが「トリガー」です。
人が変わることをサポートするスペシャリストであるマーシャル・ゴールドスミス氏(エグゼクティブ・コーチ)は、トリガーを「私たちの考え方や行動に影響を与えるすべて」と説明しています。
このトリガーに関するメカニズムを知り、それを味方につけることで、良い行動の習慣化、悪い習慣の排除がグッと近づきます。
トリガーを味方につけ、自己改善をする方法として、以下の3つをご紹介しています。前回は2番目の「トリガーと行動の関係を知る」についてお話ししました。
- トリガーを分類する
- トリガーと行動の関係を知る
- “能動的な質問”の力を利用する
今回は、3番目の「“能動的な質問”の力を利用する」についてご紹介していきます。
行動を改善できないのは「受け身の質問」をしているから
数あるトリガーのなかでも、ゴールドスミス氏が効果があると評しているのが“自問自答”です。
これほど単純で、誤解されていて、滅多に実行されないものはない。
と、単純でありながら「すべてを変える」とまでいわれ、その効果が強調されています。
その自問自答でも、特効薬的トリガーといわれているのが“能動的な質問”です。
能動的な質問に対して、私達が無意識的に使っているのが、“受け身の質問”です。
受け身の質問は、行動の結果に焦点を当てている質問です。
たとえば、外国語の習得でいうと「私は今日、英語の勉強をどれくらいしただろうか?」、甘いものを控えることでいえば「私は今日、甘いものをどれくらい食べなかっただろうか?」というものです。
一日を振り返るためのこのような質問は、行動を継続させるために、ある程度は有効ですね。
しかし受け身の質問には欠点があります。
それは、行動そのものではなく「環境」に焦点が当たりやすい、というものです。
「私は今日、英語の勉強をどれくらいしただろうか?」に対しては「今日は仕事が忙しかったから、残念ながらできなかった」
「私は今日、甘いものをどれくらい食べなかっただろうか?」に対しては「今日は仲のいい友人にケーキバイキングに誘われたから、仕方なかった」と、行動できなかった原因を周りに求め、言い訳をしてしまうのですね。
「今日も〇〇があって、行動できなかった」。
そんな言い訳を続けていくうちに、やがては習慣を身につける意欲が低下し、「やっぱり自分にはできない」と思い、一日の振り返り自体をやめてしまいかねません。
この受け身の質問に対して、能動的な質問とは、「私は今日、~について、最大限の努力をしただろうか?」と質問をすることです。
「最大限の努力をしただろうか?」と質問することで、環境は言い訳にできなくなりますね。どんな環境であろうと、最大限の努力はできるからです。
能動的な質問で振り返ることで自分の行動に焦点が当たり、それによって受け身の質問では得られない、さまざまな素晴らしい効果が得られるのです。
能動的な質問でその効果がはっきり見られたのが、アメリカ企業の社員研修での、ある調査です。
その社員研修の目的は、社員のやる気を高め、自発的な行動を引き出すことです。いかに社員のやる気を高めて生産性を上げるかは、企業の重要課題の1つですね。
その調査において、社員のやる気を高めるどころか、反対に抑えてしまっているものが「受け身の質問」にあるとわかったのです。
たとえば会社が社員に対して「あなたには明確な目標がありますか?」と受け身の質問をすると、たいていの社員は「いいえ」と答え、続けて社員は
「私の上司が決断しないから」
「会社は毎月戦略を変更するから」
などと外的な要因のせいにする、というのです。
受け身の質問では、社員が我が身を振り返って責任を感じ、「私がいけないのです」と言うことはほとんどないとわかったのです。
やる気、モチベーションの変化が2倍に!“能動的な質問”の威力
受け身の質問に対して用いられ、大きな効果が発揮されたのが能動的な質問でした。
受け身の質問が「あなたには明確な目標がありますか?」なのに対し、
能動的な質問は「あなたは自身の明確な目標を立てるために、最大限の努力をしましたか?」というものです。
受け身の質問では環境に目をやり、個人の問題として捉えなかった人が、能動的な質問を受けると、個人の問題として捉え、「自分はどれだけの努力をしていたのだろうか」と、自らの行動の説明をするようになったのです。
能動的な質問の効果をみるテストにて、社員研修を受けた人を、
②能動的な質問によって振り返りをされるグループ
の、2つに分けました。
研修から2週間後、社員のやる気がどの程度増したかを調べると、①②のグループともにプラスの改善が見られましたが、②(能動的な質問グループ)は①(受け身の質問グループ)の2倍の改善を示していたのです。
この結果を受けてゴールドスミス氏は
フォローアップの質問の仕方をちょっと変えて、個人がコントロールできることに焦点を合わせることで、著しい変化が現れるのだ。
と、質問の仕方の重要性を語っています。
※やる気のみならず、他の質問事項の幸せ・人生の意義・ポジティブな人間関係の構築においても2倍のプラスの改善が見られました
ちなみに、能動的な質問を使い、そのインパクトの大きさを示したのが、ジョン・F・ケネディ氏(第35代アメリカ合衆国大統領)の名言ですね。
(国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを問うてほしい)
行動を着実に変える“能動的な日課の質問”
社員のやる気に関して、プラスの効果が発揮された能動的な質問。
では冒頭で触れた外国語の習得や相手の話をしっかりと聞くなどの習慣を身につけるために、あるいは寝る前のスマホや甘いものの食べ過ぎなど、身についてしまっている悪習慣をやめるのに、この能動的な質問をどのように利用すればいいのでしょうか?
ゴールドスミス氏は、「能動的に日課の質問をする」ことを勧めています。
具体的にはまず、目標に対する進捗をたずねる質問リストを作成し、1日の終わりに 1~ 10で点数をつけます。
■質問リストの例
最大のポイントは、質問を“能動的にして”自身に尋ねることです。
リストの例でいえば、
「明確な目標を設定するのに、私は最大限努力をしたか?」
「新しいことを学ぶために、私は最大限努力をしたか?」
「新たなプレゼン資料を作成するために、私は最大限努力をしたか?」
と自問自答するのです。
ゴールドスミス氏に習って、行動改善の一歩として日課の質問を考えてみましょう。
そのときに気をつけるべきことは、質問の項目が
●なりたい自分になるのに役立つか?
ということです。
いくら能動的な質問が行動改善に役立つからいっても、あなた自身にとってプラスにならない習慣であれば、身につける時間がもったいないですね。
日課の質問がもたらす3つのメリット
日課の質問がなぜそれほど効果的なのか、その理由を3つに分けてご紹介します。確かなメリットを知ることで、行動改善にすぐにでも踏み出したくなると思います。
①決意を強める
続けてやろうと思っても三日坊主で(あるいはそれよりも早く)やめてしまうのは、時間の経過とともに、決意が弱まってくるからでしょう。
しかし日課の質問は、習慣を身につける大切さを思い出させる仕掛けになります。
目標を書き出し、日課の質問をすることで初めて「本気で変わろう、そのための努力をしよう」となり、時間の経過とともに決意が固まってくるのですね。
②必要なときには動機に火がつく。必要ないとつかない
日課の質問は、ごく自然にできることは高い点数がキープされ、そのうちにリストから外れていきます。そして、できていないことに焦点が合っていきます。
0点や1点など、低い点数が続いていく項目には、改めて「これは本当に身につけたいことだろうか?」と見直さざるをえなくなり、本当に必要なことは「このままではいけない」と火がつきます。
同時に、実は不必要だったことには火がつかず、「自然にできること」と同じく、リストから外れていくでしょう。
③行動改善の「最大の敵」を制圧する
行動改善にはこれが最大の敵だとゴールドスミス氏が忠告しているものがあります。
行動改善を阻む最大のものは何だと思いますか?
それは「短気」です。
私たちは結果をすぐに得たいと思います。そして、すぐに変化がなければ、変わろうという熱意を失います。
そうなれば、努力を続けることはできず、本当は変えられることも変えられなくなってしまうのですね。
しかし日課の質問は、結果に囚われがちな私たちの目をそこから逸らさせ、努力に焦点を合わせてくれるのです。
日課の質問を通して私たちは3つの教訓を得ることができます。
- 変化は一夜にして起こるものではない
- 成功は、日夜繰り返して行う、ささやかな努力の積み重ねだ
- 努力すればよくなる。しなければ、よくならない
この教訓は、これまでにお話ししてきた仏教の教えとも合致します。
仏教では「自業自得」、私たちの身に起こる結果はすべて自分の行為にあると教えられています。
日課の質問の教訓の通り、成功は努力の積み重ねの結果であり、努力をすればよくなりますが、しなければそれ相当の結果しか現れないのですね。
仏教で説かれる「於因説果(おいんせっか)」の言葉も、努力の積み重ねの大切さを教えられています。
「於因説果」とは「因に於いて果を説く」、つまり「行いという種を蒔いたならば、それに応じた結果は必ず生じるのだから、結果ばかりを見ようとせずに種を蒔くことを重視しなさい」と教えられている言葉なのです。
まかぬ種は決して生えませんから、まず種をまくこと。種をまいたならばその結果は必ず現れる。
焦りを感じたときこそ短気を抑え、種をまくことに集中したいですね。
決意を固めること、本当に変化が必要なことに火がつくこと、努力することに焦点を合わせることを可能にし、行動改善がグッと実現しやすくなる日課の質問をぜひ試してみてください。
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