「自分を変えて、いまのダメな自分を変えたい」
このような思いを抱えている方は多いと思いますが、実際、行動改善するのは難しいでしょう。
禁煙を試みた人の10人に9人は失敗している実状を、前回お話ししました。
前回の記事はこちらです。
他人が関わらない分、比較的簡単といわれる禁煙もこのような現状ならば、他人との関わりの中での行動改善はいっそう難しくなります。
こんな中で、自己改善が本当に可能なのでしょうか?
そこで知っていただきたいのが、なりたい自分になるためのキーワード「トリガー」です。
自己変革をサポートするスペシャリストであるエグゼクティブ・コーチ、マーシャル・ゴールドスミス氏は、トリガーの仕組みを理解して、それを味方につけることで、行動改善が可能になることを著書『トリガー 自分を変えるコーチングの極意』で紹介しています。
環境は、私たちを望ましくない姿へと変える
トリガーとは、私たちの考え方や行動に影響を与える刺激すべて、をいいます。
食欲をそそる料理のにおい、上司や同僚、部下からの言葉、爽快な天気や交通渋滞など、さまざまものが挙げられます。
そのトリガーは大きく2種類に分けられ、前回はその1つ目のトリガーである「信念」についてお話ししました。
“誤った信念”のトリガーは、行動に移す前から失敗を引き起こし、行動改善を阻んでしまいます。
ところがこの信念のトリガーより強いのが、もう1つのトリガーである「環境」であると言われています。
環境が私たちに与える影響の大きさ、またその環境のトリガーを味方にして、行動改善を実現する方法をお話ししていきます。
環境が与える影響を、ゴールドスミス氏は「環境が強力なトリガーとなり、私たちを望ましくない姿へと変える」と言っています。
たとえば、
- 渋滞した高速道路でイライラしてキレる、暴言を吐く
- 時間を無駄にしてしまうとわかっていながら、くだらない映画を2つも3つも続けて見てる
- やるべきでないと思いながら、悪い友だちと一緒になって、その場にいない人の悪口を言う
- ショッピングモールに行って、欲しくないものを衝動買いする
などの行為をしたことはないでしょうか。心当たりのある方も多いと思います。
なぜ周囲の信用を落とし、後悔につながる行為をしてしまうのかというと、それは強力な“環境のトリガー”によるのです。
環境がトリガーとなり、私たちを惰性的な行動に向かわせ、ときには常軌を逸する行動、反社会的な行為さえも引き起こさせるのですね。
仏教で説かれる、行動と環境、結果のメカニズム
行動と環境との関係は、仏教でも詳しく教えられています。
行動と結果の関係を教えられたのが「因縁果の道理」であり、お経はすべてこの道理にもとづいて説かれているといわれているのです。
因縁果の道理は、あらゆる結果は因と縁とが結びついて生じている、ということです。
仮に、結果を収穫した米とすると、それには因と縁とがある、ということですね。
因は直接的な原因であり、それがなければ絶対に結果は得られないもの。米でいうなら、モミ種にあたります。これがなければ絶対に米はできません。
しかし、モミ種だけでは米はできませんね。結果となるのを助けるものが必要です。このような、間接的な原因を「縁」といわれます。
米でいえば、日光や水、土壌、肥料などがあります。
それらが結びついて、米の収穫という結果が生じるのですね。
結果を、私たちの身に起こる結果に限定すれば、その結果の因は私たちの「言動」、縁は「環境」にあたります。
トリガーの1つである信念は「言動」に入りますから、どんな環境に身を置き、どんな振る舞いをしているかによって、受ける結果は変わってくるのですね。
結果の直接的な原因は私たちの言動であるので、善い結果を得るには、善い言動に努めていくことがまず大事です。
しかし環境もまた、結果に大きな影響を与えます。
先で紹介したように、環境は、私たちを怠惰で惰性的な行動へと向かわせ、ときには常軌を逸するような行動さえ引き起こしてしまうのです。
普段は温厚で、真面目そうな人が、暴言を吐いたり、陰口を叩いたり、不正を働いたりさえしてしまうのは、縁も強力に作用しているといえるでしょう。
トリガーを味方につけ、行動を変える3つの方法
私たちの行動に大きく関わる「環境のトリガー」。
そのトリガーを味方にし、行動改善をするにはどうすればいいのでしょうか?そのいくつかの方法をご紹介します。
- トリガーを分類する
- トリガーと行動の関係を知る
- “能動的な質問”の力を利用する
今回は、1番目の「トリガーを分類する」についてお話ししていきます。
トリガーにはいろいろな分類の仕方があります。
たとえば、予想できるトリガーか、予想もできないトリガーか。予想通りの反応が相手から返ってくることもあれば、突然相手が怒鳴りだして当惑することもありますね。
あるいは意識的なトリガーか、無意識的なトリガーか。
私たちの意識外のことでも、行動や考え方に影響を与えるトリガーもあります。たとえば、天候による影響。私自身、たまに頭痛でやる気を失ってしまうことがあるのですが、実は気圧が影響していたことにずっと気づいていませんでした。
このようにトリガーの分け方はさまざまですが、その中で最も重要な分類の仕方が、生産的なトリガーか、非生産的なトリガーか、です。
生産的なトリガーは、なりたい自分に近づけるものです。反対に、目標達成から遠ざけてしまうのが非生産的なトリガーですね。
どれだけ生産的なトリガーに囲まれているかが、行動改善のポイントになります。
この生産的・非生産的トリガーに、後押しするトリガー・やる気を削ぐトリガーという分類も加えたマトリックス図を、ゴールドスミス氏は紹介しています。
後押しするトリガーとは、ワクワクさせるもの、行動するための背中を押してくれるトリガー。
やる気を削ぐトリガーとは、落ち込ませたり、きまり悪く思わせたりするようなトリガーのことです。
それぞれの領域の特徴、どのようなトリガーがどこに位置するのか、見ていきましょう。
トリガー分類の4つの領域の特徴
①欲しくて、必要(右上の領域)
短期的満足と、長期的達成とが一致する領域であり、常にいたいと望む場所です。
目標に向かって価値ある努力ができ、引き続き頑張ろうという気持ちも強まります。
たとえば、正当な評価を受ける、尊敬される、金銭的な褒賞を受けるなどのトリガーがここに当てはまります。遊びのような感覚で取り組める仕事も、ここに入るのではないでしょうか。
②ほしいが、必要ない(左上の領域)
後押しするものの、それが生産的な行動とは結びつかない領域です。
誘惑し、目標に向けての努力をやめさせる、目標達成を邪魔するトリガーですね。
資格の勉強をしなければならない、課題をやり終えねばならないのに、ネットサーフィンをしたり、動画閲覧サイトで関連動画を延々クリックしたりしてしまった人は、私だけではないでしょう。
減量を目標にしている人なら、テレビやネットの食べ物の宣伝や、近くで甘いものをおいしそうに食べている人などは、悪質なトリガーとなりますね。
③必要だが、欲しくない(右下の領域)
目標達成に向かうのに必要、しかし喜んでしたいとは思えないトリガーの領域です。
罰則をともなうルールや、他者からの否定的なフィードバックなどが当てはまります。
ルールは行動を制限するものであり、従いたくないものですが、結果的に正しい方向へと導いてくれますね。
人からの忠告も気持ちのいいものではなく、聞きたいものではありませんが、誤った道に進む自分を軌道修正してくれるでしょう。
ゴールドスミス氏は、クライアントが批判的なコメントをしたら20ドルの罰金を取る、というルールを導入しているそうです。
クライアントにとっては嫌なルールですが、これには非生産的な行動を抑える高い効果があるといわれています。
④必要でもないし、欲しくもない(左下の領域)
最後は、非生産的でやる気も削ぐトリガーが集まる、望ましくない領域です。
劣悪な職場環境や凶暴な近隣住民が例として挙げられています。このような環境は、目標から私たちを遠ざけ、疲労やストレス、怒り、無力感を引き起こしてしまいます。
同じトリガーでも、異なる結果をもたらす
以上が、4つの領域の特徴です。
これに加え、もう1つ知っていただきたいことが、同じトリガーであっても、考え方によって、どの領域に分類されるかは異なる、ということです。
上司からの叱責は、それを機に気持ちを引き締めて仕事に打ち込める人にとっては「必要だが、欲しくない」領域に入ります。
しかし萎縮して恐怖心が植えつけられ、仕事に身が入らなくなる人には「必要でもないし、欲しくもない」領域に当てはまりますね。
また、目標に応じて生産的・非生産的なトリガーも変容します。
減量が目標であれば、ケーキは「欲しいが、必要ない」領域に分類されますが、資格取得が目標であれば、勉強後のご褒美としてのケーキは「欲しくて、必要」領域に入るでしょう。
行動改善へ向かっての課題にチャレンジ!
ここで、行動改善へのステップとしての課題をご紹介します。
①あなたが直そうしている行動改善目標を1つ選ぶ(例:スタイルをよくする、忍耐強くなる、厚かましい人に毅然とした態度をとるなど)
②あなたの目標達成に影響を与える人や状況を書き出す(※すべてのトリガーを書く必要はありません)
③トリガーを上のマトリクス図に書き入れる
その後、
「目標に向かうのを妨げるトリガーはあるか?」
「改善を後押ししてくれる、背中を押してくれるトリガーはあるか?」
「罰しようとする人やルールはあるか?」
ということに注目し、望ましい状況にいるかどうか、確認をしてみてください。
この課題に取り組まれることで、自分が生産的な象限(右側)で行動しているかどうかが明らかになり、身の回りの環境に今まで以上の注意を払うようになります。
目標に向かうのを妨げるトリガーが多い時はそれらをできる限り排除し、罰するようなトリガーがなければ、自分が間違ったことをしていれば指摘してもらうことを友人に依頼するなど、対策を立てていきたいですね。
次回は、行動改善の2つ目の方法「トリガーと行動の関係を知る」についてお話ししていきます。
このような、心理学と仏教の視点から、役立つ内容を、ワークショップを開催してお伝えしております。東京近辺にお住まいの方は、ぜひ、下のボタンをクリックしてご参加ください。
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