世の中にはさまざまタイプの人がいます。
公正で親切な、いわゆる「いい人」もいれば、「バレなければ大丈夫」と人をだまし、手柄を横取りしてしまうような、いわゆる「イヤな人」、あるいは、優しくしてもらえば自分も優しくし、傷つけられれば傷つけ返すような、相手の出方次第という人もいるでしょう。
ずる賢い人のほうがやはり社会的には成功しているのか、そして、正直者はバカを見ることになってしまうのか。
どのタイプの人が社会的な成功に最も近いのでしょうか?
この人間のタイプと「社会的な成功」との関係を膨大な調査と研究によって明らかにしたのが、ペンシルベニア大学ウォートン校のアダム・グラント教授です。
その調査・研究結果が書かれた『GIVE&TAKE』は、24ヶ国語以上で翻訳され、世界的なベストセラーとなりました。
グラント教授が発見した人間の3つのタイプと成功との関係をご紹介します。
人間の3つのタイプ「ギバー」「テイカー」「マッチャー」とは?
グラント教授は世界の文化をまたいで3万人以上を対象に、「与える」「取る」という観点から人間を3つのタイプに分け、それらのタイプと社会的成功との関連を調査しました。
まず、その人のタイプを見分けるために、さまざまシチュエーションの質問に答えてもらいました。
例えば、以下のような質問です。
現在対応すべきタスクが3つ存在しています。
そのうちの2つのタスクはとても面白いものです。 しかし、残りの1つはとても退屈なタスクであることが判明しています。
さて、どうしましょう?
答えは3つの選択肢から1つを選びます。
②退屈なタスクに取り組む。他の2人には、あとで何らかの見返りを要求する。
③特に見返りなどは意識せず、退屈なタスクに取り組む。
さまざまなケースを想定したこのような質問への答えの傾向から、その人のタイプを見分けていったのです。
(あなたはどれを選ばれるでしょうか?先を読む前にぜひ答えてみてください)
その見分けられた3つのタイプが
テイカー
マッチャー
です。
ギバー(Giver)は「受けとる以上に与えようとする」タイプ(先の質問に対して③を選んだ人)、反対にテイカー(Taker)は「与えるより多くを受けとろうとする」タイプです(①を選んだ人)。
そしてマッチャー(Matcher)は「与えることと受けとることのバランスをとろうとする」タイプです。自分が与えたなら相応の見返りを求め、人に親切にしてもらったなら同等のお返しをする、という人ですね(②を選んだ人)。
あなたはどのタイプに当てはまりそうでしょうか?(タイプ分けの質問はたった1つしかご紹介していないので、それだけではまったく言い切れませんが、参考にしていただければと思います)
ちなみにグラント教授の調査によると、最も多かったタイプはマッチャーで、56%でした。
次いでギバーが25%、意外なことに(?)テイカーは最も低い19%です。
ここからがいよいよ本題です。それぞれのタイプと成功との関連を見ていきましょう。
最も成功から離れているタイプ、最も成功しているタイプは?
3つのタイプのうち、最も成功から遠い位置にいるのはどのタイプだったと思いますか?
これはギバーでした。
エンジニア、医学生、営業担当者、いずれの調査でも、ギバーたちは締め切りに遅れる、低い点数を取る、売り上げが伸びないなど、良い結果を残せないでいたのです。
それは給与面にも響き、ギバーはテイカーに比べて収入が平均14%低いという厳しい数字が出ています。
なぜギバーの成績は振るわないかといえば、ギバーは親切ないい人なので、ほかの人のために時間を使いすぎて、自分のことが疎かになってしまっていたからです。
さらに悪いことに、テイカーに比べて犯罪の被害者になるリスクが2倍である、という結果も出ています。
「いい人」であるゆえ、「イヤな人」にうまく利用され、だまされ、搾取されることさえあるのですね。
先の質問でギバーに当てはまった人、普段から親切を心がけている人は、これを聞いて絶望されたかもしれません。
やはりずる賢い人がはばかり、「正直者がバカを見る」世の中なのでしょうか……。
では最も成功しているタイプはどのタイプでしょう?
実はこちらもギバーだったのです。ギバーは成功に最も近い位置と最も遠い位置の双方にいたのでした(マッチャーやテイカーは中間に位置していたそうです)。
目立った業績をあげているエンジニア、最優秀の成績を取っている医学生、大きな利益をもたらしている営業担当者はいずれもギバーだったのです。
「いつも他者を助けることを優先している人びとは、敗者ばかりでなく、勝者のほうにも多く登場していました」とグラント教授は語っています。
同じギバーであるにもかかわらず、成功に関してなぜこれほど明確な違いが出たのでしょうか?
ギバーがまっぷたつに分かれる理由
それは、同じギバーであっても、「自己犠牲型」と「他者志向性」の、2通りのギバーがいるからなのです。
自己犠牲型のギバーはその名の通り、自分のことは考えず、自己犠牲的に与える人です。もちろんその精神は素晴らしいともいえるのですが、「イヤな人」につけ込まれ、自分のことが疎かになり、やがては身も心も疲れ果て、燃え尽きてしまうリスクがあります。
他者志向性のギバーは、他者のこと優先し、受け取るより多くを与えていても、決して自分のことを見失っていないのです。「イヤな人」やその集団を見極め、適切に対処し、自己犠牲的にはならない人なのです。
そのためグラント教授は、単に「ギバーになろう」ということを勧めているのではなく、ギバーの素晴らしさとともに「他者志向性のギバーになるポイント」を紹介されています。
グラント教授がウォートン校に着任し、はじめて生徒たちに3つのタイプを紹介し、「成功の階段の一番下で終わるのはどのタイプだと思いますか?」と質問したとき、生徒の答えはほぼ満場一致で「ギバー」でした。
そこでグラント教授はこう語ったそうです。
確かに、何の見返りも期待せず、ひたすら他人を助けている人たちのなかには、成功の階段の一番下に転げ落ちる人もたくさんいる。
しかし同じギバーであっても、ほんのちょっと工夫をすれば、階段の一番上にのぼることができるんだ。
他人の人生に“ちょっといいこと”を起こすことに、注意とエネルギーを集中してみてほしい。
そうすれば、成功はおのずとついてくる。
グラント教授は“ほんのちょっと工夫をすれば”と言われていますが、この工夫が自己犠牲になるか他者志向になるかの重要な分かれ目になるのですね。
その他者志向性のギバーの工夫のなかでも、特に大事な1つを知っていただきたいと思います。
ギバーが最も成功するワケと、伴うリスク
そもそもなぜ他者志向性のギバーは最も成功の近くに位置しているのでしょうか?
それはその与えるという行為・他者を優先して助ける行為・親切によって、好意的な関係、信頼関係が築かれるからですね。
グラント教授はこう語っています。
事実、ギバーであることの恩恵は時間とともに大きくなっていく。
もちろんリスクもあるが、長い目で見れば、素晴らしい結果をもたらしうるのだ。
築き上げるには時間はかかりますが、時間の経過とともによい評判と人間関係が成功へと導いてくれるのですね(反対にテイカーは時間の経過とともに信頼を失い、落ちてしまいます)。
ただ、グラント教授が言われているようにそこには「リスク」もあります。それは、成功に近づく前に「イヤな人」にだまされ、搾取され、燃え尽きてしまうことです。
なぜギバーが自己犠牲的になってしまうかというと、1つに、「いつでも人を信用する」ことが挙げられます。
同じギバー同士、あるいはマッチャーが相手なら、良好な関係を築くことができます(マッチャーはお返しをしてくれる人だからですね)。
問題は相手がテイカーである場合です。テイカーを信用すれば、残念ながらうまく利用されてしまう可能性が高いでしょう。
しかしこの問題を、他者志向性のギバーは解決しています。それはどんな方法なのでしょうか?
相手のタイプを見分けるには?注意すべきは“愛想のよさ”
「いつでも人を信用する」自己犠牲型のギバーに対して、他者志向性のギバーは「信用が基本だが、行動や評判から相手のタイプを判断し、適切な対応をする」のです。
グラント教授はこう指摘されています。
成功するギバーになりたければ、自分の身を守るために、人を操って利用しようとしている人間を見抜かなければならない。
だまされないために、相手のタイプを見極める目が他者志向性になるために不可欠なのですね。
では操って人を利用しようとする人、テイカーを見抜くにはどうすればいいのでしょうか?
これは簡単ではありません。それは、利用しようと近づいてくる人は「あなたを利用しますよ」と言って近づいてはこないからですね。
相手はいかにもギバーであるかのように「愛想よく」、言葉巧みに近づいてくるのです。
私たちには、愛想のいい人は内面もいい人、友好的な人であり、無愛想な人はテイカーだという固定観念があります(一部分の印象が、その人全体を印象づける“ハロー効果”がよく知られています)。
この愛想のよさにだまされないことが、相手がテイカーや詐欺師かどうかを判断するうえで欠かせません。
相手のタイプを知るために心理テストを受けてもらうという方法はありますが(現実的ではないですが)、それさえも本心とは逆のことを書いて、だましてしまうかもしれません。
そんな相手のタイプを見抜く方法はあるのでしょうか?
ここに注目!愛想のよさにだまされないための方法
愛想のよさにだまされない方法について、イギリスの文学者であるサミュエル・ジョンソンの言葉が紹介されています。
自分に利益をもたらさない相手とは、たとえばレストランのウェイトレスや、タクシーの運転手が挙げられています。
仮にそのような人たちに尊大で横柄な態度を取る人がいれば、その本性は推して知るべしでしょう(自分がそんなことをしてはいないかとも反省させられます)。
もしその人の本当のタイプが知りたければ、第三者にどんな態度で接しているかをモニタリングしてみればいいのですね。
ただ、これは相手に知られると、いままでの信頼関係が傷つきかねませんので、それよりもその人の評判をいろいろな人から聞いてみるのをお勧めします。
ギバーであれば悪い評判は出てこないでしょう。もしテイカーであれば…。
それでは相手がテイカーだとわかった場合、その後はどのように接すればいいのでしょうか?
それについてもグラント教授はしっかりと答えています。
ただし、最初はギバーでいたほうがよいだろう。
信頼は築くことこそ難しいが、壊すのは簡単だからだ。
それでも、相手が明らかにテイカーとして行動したら、ギバー、マッチャー、テイカーの3タイプを使い分け、ぴったりの戦略をとるのが得策だろう。
「タイプの使い分け」「戦略」と聞くと、なにかずる賢いイメージを持たれるかもしれませんが、これは相手をだますのではなく、自分の身を守るためにとても大事なことです。
相手がもしテイカーとして行動すれば、マッチャーとして振る舞う(具体的には距離を置く、相応のペナルティを科す、場合によっては関係をやめるなど)ことで自分を守り、別のところで思う存分ギバーとしての行為をすればいいのですね。
ハーバード・ビジネス・レビューの人気ブロガーであり、経営コンサルタントのピーター・ブレグマン氏は、相手の問題行動は放置すべきではなく、3回同じことを繰り返されたら問題提起をする、というルールを自分に課しています。
2度目は、これはかならずしも偶然なことではなく、こういうパターンなのかもしれないと考え、仔細に観察してどう対応しようかと計画を練る。
3度目? 3度目にはかならずそのことについて相手になにかをいう。これがわたしの3回ルールだ。
(『18分の法則』より引用)
問題提起をすることは、自分を軽く扱われることを防ぎ、自己尊重にもつながります。まさに「仏の顔も三度」が対人関係において有効なのだとわかりますね。
仏教で説かれる与えることの素晴らしさと、与えるべき相手
『GIVE&TAKE』により、与える人がなぜ成功し、どんなことに気をつけるべきかもスッキリとわかったのですが、2600年前に説かれた仏教に、与えることこそ最も素晴らしい善であり、またその心がけも教えられていることを聞かれると、さらに驚かれるかもしれません。
仏教を説かれたお釈迦様は一貫して「与える」ことを勧められました。
仏教では、与えることを「布施(お金やものを与えることは財施といわれます)」といい、その財施をすべき相手を「田んぼ」に例えられています。
なぜ田んぼかといいますと、田んぼは秋になると稲穂が実り、春にまいたモミダネとは比較にならないほどたくさんの米を収穫できます。
ちょうど同じように、与えることで相手も喜ばれますが、それは巡り巡って何倍もの素晴らしい結果となってあなた自身にやってくる、と教えられているからです。
その素晴らしい結果の1つは、グラント教授の語る「成功へと導いてくれる評判と人間関係」といえるでしょう。
さらにお釈迦様は、この田んぼを3つに分けられました。それを「三田(さんでん)」と教えられています。
三田は、
恩田(おんでん、ご恩を受けている人)例:両親、パートナー、恩師、家族など
悲田(ひでん、本当に困っている人)例:災害に遭われた人など
の3つです。
お釈迦様も「与えるべき相手」を教えられているとは、意外に思われるかもしれません。
極端な話をすれば、もし多くの人を不幸にするような犯罪組織に献金していたら、それは財施といえるでしょうか?
そんなことに使われていたら、とても納得できないですね。
ゆえに、与える相手を見極めることがやはり大事といえるでしょう。
ギバーという特性を持たれた方は本当に素晴らしい方です。その素晴らしさを存分に発揮されるよう、“ほんのちょっとの工夫”を心がけていただければと思います。
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