「ストレスを感じている人」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。
おそらく、
・不安を抱えて、表情が沈んでいる人
や、あるいは、
・常にイライラして、攻撃的な人
・相手のことを考えずに、利己的な行為をしている人
を思い浮かべると思います。
ストレスを抱えている人に囲まれたい!とは、とても思いませんよね。
「人に優しくできるよう、できる限り、ストレスを溜めないようにしている」と心がけている方もいるでしょう。
ところが、最新のストレスに関する研究によって、「ストレスは人を利他的にする、親切にする」という作用があることがわかってきたのです。
ストレスが人を利他的にするとは、
・具体的にどう心や行動が変わるのか
・身体的にはどのような変化が起きるのか
・また、ストレスからよい影響を受けるにはどうすればいいのか
をご紹介していきます。
ストレスは人を利他的にする?最新の研究でわかった、ストレスの意外な作用
ストレスには「いたわりや、協力や、思いやりを強める作用がある」ことを発見したのが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者 シェリー・テーラー氏です。
テーラー氏はこれを「思いやり・絆理論」と言っています。
本当に、ストレスには思いやりを強める作用があるのでしょうか。
これに関して、ある実験が紹介されていました。
被験者の一部は、事前にプレッシャーと脅威を与えられ、ストレスが最大化した状態にされました。
そして、その一部の被験者と、ストレスを与えられていない他の被験者とで、ゲームをしてもらいました。
そのゲームとは、「トラスト(=信用)ゲーム」。
相手を信用するか、しないかを決めて、お互いがお互いを信用すれば双方の獲得金額が2倍になり、裏切られると、獲得金額はゼロ(裏切った相手はお互い信用した場合の獲得金額の半分の金額が得られる)になってしまうというものです。
信用すれば獲得金額を大きく増やせる可能性がありますが、裏切られたときのリスクも大きいです。
では裏切り続ければいいかというと、そんなことをすれば相手から反感を買って、その先で信用されることはなくなり、獲得金額も最低限のものしか得られませんね。
では、それぞれの被験者の、相手を信用する確率はどれくらいだったのでしょうか。
ストレスの過多によって、相手を信用する態度に変化は出たのでしょうか。
ストレスが与えられていない人たちは、相手を信用し、相手の信用に応えた確率は50パーセントでした。
それに対して、ストレスが最大化された被験者は、相手を信用し、相手の信用に応えた確率は75パーセントと、異例の高さだったのです。
この実験をはじめ、さまざまな研究から、「ストレスは人を利他的にする」証拠が発見されています。
ストレス反応は1種類ではない
人はストレスを感じると、そのストレスに対処するために体内のシステムを変化させます。
これがストレス反応です。
ストレス反応と聞くと、イライラして攻撃的になったり、あるいは極度の不安を感じてその場から逃げ出したくなったりすることを思い浮かべるかもしれません。
それは「闘うか・逃げるか」の行動をさせやすくする反応(「ファイト・オア・フライト反応」「脅威反応」と呼ばれます)であり、ストレス反応といえば、この反応のことだと思われています。
しかし、先のテーラー氏は、この「ファイト・オア・フライト反応」とは異なるストレス反応を発見しました。
それが「テンド・アンド・ビフレンド(世話し、味方する)反応」です。
わかりやすくいえば「思いやり・絆反応」です。
テーラー氏は「思いやり・絆反応」について、こう語っています。
脅威を感じたとき、私達は一人で闘うか・逃げるかにとらわれるだけでなく、危険だからこそ人とのつながり・絆を求めて、寄り添うことで、危険から身を守ろうとすることもあるのですね。
「思いやり・絆反応」によって起こる、ポジティブな3つの変化
「思いやり・絆反応」が起こると、具体的にはどのような変化が生じるのでしょうか。
それについて、脳の中の、以下の3つのシステムが活性化するといわれています。
- 社会的交流ケアシステム
- 報酬システム
- 調律システム
1.社会的交流ケアシステム
オキシトシンというホルモン(よく“幸せホルモン”とも呼ばれていますね)が分泌されることで活性化するのが、社会的交流ケアシステムです。
社会的交流ケアシステムが活性化すると、相手に対する思いやりが強まったり、相手を信頼する気持ちが高まったりするのです。
2.報酬システム
神経伝達物質であるドーパミンによって活性化するのが報酬システムです。
報酬システムが活性化するとやる気が強まります。
いっぽうで恐怖の感情は弱まるのです。
3.調律システム
神経伝達物質セロトニンによって作動するのが調律システムです。
このシステムが活性化すると、知覚や直感や自制心が強くなるといわれています。
それによって何をすべきかを瞬時に理解し、最大限の効果をもたらす行動が取れるようになります。
以上のことをまとめると、この脳の3つのシステムが活性化されることで、あなたは
・勇気が湧き、積極的に行動できる
・自分の置かれた状況を瞬時に理解し、頭の回転が速くなる
のです。
一般的に持たれているストレス反応のイメージ(自分勝手な行動をとる、不安を抱えて落ち込みやすくなる、イライラして衝動的になる)とはまるで異なり、むしろその反対の変化を起こすのが「思いやり・絆反応」なのですね。
この反応が起こせれば、ストレスからは悪影響を受けず、むしろ恩恵を得て、仕事の生産性も高まったり、対人関係も良好になったりするでしょう。
逆境や苦しみのなかで「思いやり・絆反応」を起こすには?
では、「思いやり・絆反応」を起こすには、具体的にどうすればいいのでしょうか。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の科学者の研究により、“周りの人をいたわる”ことによって、脳のスイッチが「恐怖」から「勇気」へと切り替わることが証明されたことがわかっています。
苦しんでいる人に意識を向けない人たちは、先で紹介した報酬システムと社会的交流ケアシステムの活動が弱まっており、そのせいで無力感に苛まれたのに対して、苦しんでいる人を助けようとした人たちは、報酬システムと社会的交流ケアシステムが活性化していて、恐怖の感情が抑えられていたのでした。
この研究から、身近な人が苦しんでいるときに意識をどこに向けるかで、体に起こるストレス反応が違ってくることがわかります。
⇒私たちは希望やつながりを感じる
自分のもどかしさを解消することばかりに気を取られる
⇒恐怖から逃れられなくなる
苦しみを抱える人をいたわり、寄り添うことで、「思いやり・絆反応」が生じ、体のシステムがよい方向に変化し、ストレスから恩恵を得ることができるのですね。
苦しんでいる人、悩んでいる人を助ける、いたわると聞くと、自分にはそこまでのことはできない、と思われるかもしれません。
しかし小さな利他の行為(=親切)によってでも自分の体を勇気の出る状態にできる、といわれています。
まず、1日に1つ、誰かの役に立つ行為を考えて、ぜひ実行してみてください。
参考文献:
『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル著 大和書房)
『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』(アダム・グラント著 三笠書房)
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