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残念ながら、村上春樹氏はノーベル文学賞を逃してしまいました。
しかし、受賞予想2位という位置をつけていることは大変なことです。
一体、どうしてそのように評価されるのか、その文章が私たちにどのような影響を与えているのか、仏教講師の立場で書いてみました。
仏教講師としては、ちょっと他とは違って切り口で、村上春樹が「生と死」に語っている部分にフォーカスして、5つの文章をピックアップしてみました。
死は生の対局としてではなく、その一部として存在している
『ノルウェイの森』
『ノルウェイの森』は村上春樹の5作目の長編小説。
1000万部を超え、2010年にトラン・アン・ユンの監督により映画化されています。
村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』には「性と死を描かない」としていましたが、
『ノルウェイの森』では逆に「性と死しか描かなかった」と本人が語っています。
(「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」より)
死ぬのは苦しい。
天吾(てんご)くんが予想しているよりずっと苦しいんだよ。
そしてどこまでも孤独なんだ。
こんなに人は孤独になれるのかと感心してしまうくらいに孤独なんだ。
それは覚えておいた方がいい。
『1Q84』
インタビュー 「『1Q84』で描くポスト冷戦の世界(トムソンロイター)」では、こう語っています。
「ポスト冷戦の世界というもののあり方を僕らは書いていかないといけないと思う。
でもそれは、どれだけリアルに描いても書ききれないものだ。
ではどういう風に書くかというと、メタファーで書くしかない」
「一体どういうふうに生きればいいのか、何を価値、軸として生きていけばいいのか、当然そういう疑問が出てくるが、今、特にこれという軸がない」
『1Q84』で描くポスト冷戦の世界
価値観の喪失。いや、始めから軸となるものがなかったことに気付き始めた世界。だからこそ、正しい思想が求められているようです。
今から百年後には、ここにいる人々はおそらくみんな(僕もふくめて)地上から消えて、塵か灰になってしまっているはずだ。
そう考えると不思議な気持ちになる。
そこにあるすべてのものごとがはかない幻みたいに見えてくる。
風に吹かれて今にも飛び散ってしまいそうに見える。
僕は自分の両手を広げてじっと見つめる。
僕はいったいなんのためにあくせくことなことをしているのだろう?
どうしてこんなに必死に生きていかなくてはならないんだろう?
『海辺のカフカ』
お釈迦さまのお弟子、舎利弗(しゃりほつ)と目連(もくれん)は、祭りの日、無邪気なまでに笑い踊っている人たちも100年後には口を開くことも、目をあけることも、ましてや笑い踊ることができる人など一人もないのだと確実な未来に思いを馳せたとき、世の無常を深く観じ、本当の幸せを求める心をおこしたといわれます。
もしかしたら、この『海辺のカフカ』の言葉も、その逸話から書かれたものかもしれませんね。
「ねえ、ねじまき鳥さん、ときどき私考えるんだけれど、ゆっくりと時間をかけて、少しずつ死んでいくのって、いったいどんな気分かしら?」
僕は質問の趣旨がよくわからなかったので、吊り革を持ったまま姿勢を変えて、笠原メイの顔を覗き込んだ。
「ゆっくり少しずつ死んでいくって、たとえば具体的にどういう場合のことだろう?」
「たとえばね・・・・そうだな、どこか暗いところにひとりで 閉じ込められて、食べるものもなく、飲むものもなく、だんだん
ちょっとずつ死んでいくような場合のことよ」
「それはたしかに辛いし、苦しいだろうな」と僕は言った。
「なるべくならそういう死に方はしたくないね」
「でもね、ねじまき鳥さん、人生ってそもそもそういうものじゃ ないかしら。
みんなどこかしら暗いところに閉じ込められて、食べるものや 飲むものを取り上げられて、だんだんゆっくりと死んでいくもの
じゃないかしら。少しずつ、少しずつ」
僕は笑った。
「君は君の歳にしては、ときどきものすごくペシミスティックな考え方をするね」
「そのペシなんとかってどういうこと?」
「ペシミスティック。世の中の暗いところだけを取り出して見るっていうことだよ」
ペシミスティック、と彼女は何度か口の中で繰り返した。
「ねじまき鳥さん」と彼女は僕の顔をじっと睨むように見上げながら言った。
「私はまだ16だし、世の中のことをあまりよくは知らないけれども、 でもこれだけは確信をもって断言できるわよ。
もし私がペシミスティックだとしたら、ペシミスティックじゃない 世の中の大人はみんな馬鹿よ」
『ねじまき鳥クロニクル第一部』
人間はいろいろに病んでいるわけですが、そのいちばん根本にあるのは人間は死ぬということですよ。
(中略)
現代というか、近代は、死ぬということをなるべく考えないで生きることにものすごく集中した、非常に珍しい時代ですね。
それは科学・技術によって、人間の「生きる」可能性が急に拡大されたからですね。
その中で死について考えるというのは大変だったのですが、このごろ科学・技術の発展に乗っていても、人間はそう幸福になれるわけではないことが実感されてきました。
そうなると、死について急に語られるようになってきましたね。
だけど、ほんとに人間というものを考えたら、死のことをどこかで考えていなかったら、話にならないですよね。
その点、それこそ平安時代の物語なんかは死ということはずっとある。
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』
著名な心理学者であり、文化功労者でもある河合隼雄さん(故)は、小説家、村上春樹さんとの対話の中で語られた言葉です。
以下は、参考まで
『風の歌を聴け』(1979年)
群像新人文学賞(1979年)
野間文芸新人賞(1982年)
谷崎潤一郎賞(1985年)
読売文学賞(1996年)
桑原武夫学芸賞(1999年)
フランツ・カフカ賞(2006年)
世界幻想文学大賞(2006年)
朝日賞(2007年)
早稲田大学坪内逍遙大賞(2007年)
バークレー日本賞(2008年)
エルサレム賞(2009年)
毎日出版文化賞(2009年)
スペイン芸術文学勲章(2009年)
小林秀雄賞(2012年)
ヴェルト文学賞(2014年)
アンデルセン文学賞(2016年)
見出し
村上春樹がアメリカの大学で日本文学を教えていたとき、学生たちに以下のようなことを言いました。
「何度も何度もテキストを読むこと。
細部まで暗記するくらいに読み込むこと。
もうひとつはそのテキストを好きになろうと精いっぱい努力すること(つまり冷笑的にならないように努めること)。
最後に、本を読みながら頭に浮かんだ疑問点を、どんなに些細なこと、つまらないことでも いいから(むしろ些細なこと、つまらないことの方が望ましい)、こまめにリストアップして いくこと」
(『文章のみがき方』辰野和男著より)
ダイナマイトの発明によって富を得たアルフレッド・ベルンハルド・ノーベルが遺贈した基金から,毎年 4機関によって授与される賞。最初の授与は,ノーベルの 5回目の命日にあたる 1901年12月10日に行なわれた。ノーベルの遺言に従って,毎年,物理学,化学,生理学・医学,文学,および平和の 5分野において「過去 1年間に人類に対して最大の貢献をした者」に授与される。
ブリタニカ国際大百科事典より
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