目次
はじめに 「努力しても無駄だ」と感じる人は、努力してきた人
- 才能ある人には勝てない…? 努力では変えられないこともあるのが現実
- 才能はどのくらい遺伝するの?――「遺伝」と「環境」
- 才能がなければ努力は無駄?――「遺伝」の影響
- 才能も不幸も「遺伝率が高い」なら運命は変えられない?――「環境」の影響
- 「あなたの努力が無駄になるか」を決めるのは○○
はじめに

今回はこんなお悩みについてです。
結局、才能がある人には及ばない気がします。
「努力したって無駄なんだ」と思うこともあります。
私も予想もしない病気になったり、なにをやってもうまくいかないと感じたりしたとき、「もう頑張れない。努力しても報われない。」と思いました。
でも「努力しても無駄だ」って自暴自棄な気持ちになる人って、ものすごく努力してきた人なんですよね。
はじめから努力しない人は、悔しい気持ちにもならないでしょう。
誰よりも努力したからこそ、「努力したって無駄だ」と強い感情をもつのです。
まずは自分が頑張ってきたことを認め、自分を大切にいたわってもらいたいと思います。
才能ある人には勝てない…? 努力では変えられないこともあるのが現実
最初に伝えておきますが、努力では変えられないこともあります。
「努力すれば、できないことなんてない」
漫画やドラマで描かれる主人公のひたむきな努力や、ドキュメンタリーの“成功者のことば”など、努力を称賛するメッセージは巷にあふれています。
ところが現実は、努力しても報われないと感じることも多いのではないでしょうか。
「努力すれば必ず成果が出る」という論理は、裏を返せば
「成果が出ていない人は、努力していないからだ」
となりかねません。
しかし、遺伝要素が強い性質は、努力ではほとんど変えられません。
わかりやすいのは、男性か女性か、身長が高いか、HSP(繊細さ)など。
体型や性格、能力も、遺伝することがわかっています。
努力では変えられないこともあります。
人生が思うようにならないとしても、
生きづらさを抱えているとしても、
「あなたの努力が足りなかったから」ではないのです。

思うようにならないとき「努力が足りない」と自分を責めないで。
遺伝の影響が強い部分は、変えられないこともあるのですから。
才能はどのくらい遺伝するの?――「遺伝」と「環境」
ここで誤解してほしくないのは、
「遺伝だから、私の人生は不幸に決まってる」のではないということ。
遺伝といっても「遺伝する/遺伝しない」どちらか1つではありません。
遺伝には強弱があります。
『言ってはいけない』(橘玲 著/新潮新書 2016.4)をもとに考えていきます。
いろいろな遺伝の強弱は、行動遺伝学によって「遺伝率」として計測されています。
身長の遺伝率は、66%
体重の遺伝率は、74%
双極性障害の遺伝率は、83%
ここで注意が必要なのは、「遺伝率80%」と言った場合、「8割の確率で親と同じになる」という意味ではないこと。
あらゆる特性の要因には「遺伝」と「環境」があり、遺伝の影響はどのくらいあるのかを調べたのが「遺伝率(遺伝力)」です。
たとえば身長は、かなり背が高い人から低い人まで、ミリ単位で差がありますよね。
これをグラフにすると、正規分布(ベルカーブ)を描きます。
(文部科学省 学校保健統計調査 / 平成26年度 全国表より作成)
平均値がもっとも多く、極端に背が高い・極端に背が低いほど人数が少なくなります。
この全体の“ばらつき”について、「66%は遺伝」「34%は環境」が要因だと説明できるのです。
(個体の特性について「66%は遺伝が原因」ということではありません)
才能、知能、病気、性格、幸福の感じやすさに至るまで、遺伝の影響をかなり受けることがわかっています。
しかし、「親のせいで自分の不幸が決定した」「家系が悪いから自分の人生は変えられない」ということはありません。
それぞれの特性ごとに遺伝率には強弱がある上、隔世遺伝や眠っている遺伝子、変異遺伝子、閾値、さらにさまざまな環境要因もあるからです。

努力で変えられない部分があるのは事実。
けれど「遺伝だから幸せになれない」と諦める必要もありません。
才能がなければ努力は無駄?――「遺伝」の影響
「氏より育ち」(人間形成に大事なのは、家柄よりも育った環境の方だ/新明解国語辞典)という言葉もあるように、生まれ持った「遺伝」より、生まれてからの「環境」が重視されています。
しかし、行動遺伝学によって明らかにされている数字をみると、「育ちより氏」(環境より遺伝)とも思えてきます。
音楽 92%
数学 87%
スポーツ 85%
執筆 83%
美術 56%
記憶 56%
外国語 50%
一般知能 77%
空間性知能 70%
論理的推論 68%
学業成績 55%
言語性知能 14%
開放性 52%
外向性 46%
神経症傾向 46%
新奇性追求 34%
自閉症(女児) 87%
ADHD 80%
喫煙(男性) 58%
アルコール中毒 54%
(数字は、『遺伝マインド』ふたご行動発達研究センター長 安藤寿康著より抜粋)
遺伝の影響が50%以上の項目がズラリ。
「あーあ、私の人生がサイアクなのは遺伝のせいなんだ」
なんて、ため息が出るかもしれません。
ところが、<遺伝子がまったく同じ>一卵性双生児であっても、よく似ているがまったく同じにはなりません。
「環境」の影響を受けるからです。
環境といっても、「共有環境」と「非共有環境」があります。
■遺伝率が高くても、まったく変えられないものはほとんどありません。
人間に備わった「変化する力」は強いものです。
環境の中でも「非共有環境」の影響が大きいのです。
どんな学校に通う?
どんな友達と仲良くする?
どんな生活習慣を身につける?
ほとんどが、自分の意思で決められることです。
遺伝の影響は大きい。だけど自分の意思で決めて、変えていける部分もたくさんあるのです。

遺伝の影響は大きい。けれど「変えられない」と諦めないで。
変えていける部分に力を注いでいきましょう。
才能も不幸も「遺伝率が高い」なら運命は変えられない?――「環境」の影響
特に「遺伝率が高い」ものは、
「遺伝の影響を受けやすいからこそ、環境をととのえよう」
と意識することが幸せへの一歩になります。
遺伝率がどれだけ高くても、運命は変えられます。
たとえばアルコール中毒は54%の遺伝率ですが、
「自分は遺伝的に大きなリスクがある。だから飲み会には行きません。」
と周囲に伝えることができます。
飲酒しなければ、アルコール中毒にはなりません。
アルコール依存症克服のプログラムで読まれる「ニーバーの祈り」という言葉があります。
変えられないものを受け入れる冷静さを
そして両者を識別する知恵を与えたまえ
遺伝の影響が強い性質を、変えることはできません。
しかし環境を変えることはできます。
悪いものは環境をととのえて対策をしていきましょう。
あなたの努力は無駄にはなりません。
遺伝以外の要素(環境・努力)が人生を大きく変えることは、次の実話からもわかります。
■遺伝率が高く、才能があっても、努力しなければゼロになる話。
遺伝子がまったく同じ(一卵性双生児)で、1人はプロのピアニスト、1人は楽譜すら読めない大人になった実例があります。
(米国の心理学者 ジュディス・リッチ・ハリス『子育ての大誤解』より)
音楽の才能は、92%が遺伝。
ということは、楽譜すら読めない大人になったほうも、遺伝的には音楽の才能があったはずです。
ふたごは幼少期から、別々の親に育てられました。
プロのピアニストになったほうの親は、音楽と無縁。
楽譜すら読めないほうの親は、ピアノ教室の先生でした。
「えっ、逆じゃないの?」
と意外に思われるかもしれませんが、心理的には不思議なことではありません。
ピアノ教室には、ピアノが上手な子たちが集まるので、少しくらい音楽の才能があっても驚かれません。
友達や周囲とキャラが重なることを避け、音楽には見向きもしなかったのでしょう。
逆に音楽と無縁の親のほうは、子どもがなにかのきっかけで「音楽の才能があるかも」と感じ、周囲からも注目され、どんどん音楽の才能を伸ばしていったのでしょう。
たった8%の「環境の影響」によって、遺伝子が同じふたごでも、まったく違う人生になったのです。

遺伝の影響を受けやすいからこそ、環境を選び、ととのえていきましょう。
環境の影響は、あなたが思う以上に大きなものです。
「あなたの努力が無駄になるか」を決めるのは○○
「努力がすべて」だと考えるのは間違いです。
ひとは、遺伝の影響をかなり受けています。
「遺伝がすべて」だと考えるのも間違いです。
遺伝がすべてだと間違えた最悪の例が、ナチスの「優生学」。
「遺伝的に劣ったものは生きていても無駄なので絶滅させる」という横暴な誤用です。
遺伝率がどれほど高くても、人生は変えることができます。
遺伝率100%のふたごでも、まったく違う人生になるのですから。
努力が無駄かどうかは、あなたが「なにを得たいのか」「どこにたどり着きたいのか」によります。
「あなたの努力が無駄になるか」を決めるのは“目的”なのです。
才能が開花しても、終わりのない「競争」に嫌気がさすかもしれません。
高収入のエリートになっても、仕事に「忙殺」されてお金を使うヒマもない人もいます。
せっかく努力してたどり着いた場所に、思い描いた「幸せ」はなかったという悲劇がよくあるのです。
「もし、はしごをかけ違えていれば、一段ずつ昇るごとに間違った場所に早く辿り着くだけである」
(『7つの習慣』スティーブン・R.・コヴィー著)
目的を知ることこそ、遺伝の影響以上に、あなたの幸せを決定します。
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